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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第三章:「課題山積」

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・3-16 第35話:「軍備再編:2」

・3-16 第35話:「軍備再編:2」


 内戦が始まる前のタウゼント帝国の国法によれば、各諸侯に課せられた軍役の分と皇帝直属の分を含めて、帝国軍は四十万以上の総兵力を有することとなっていた。

 その内の半分、二十万は諸外国との主要な戦闘に参加する決戦兵力であり、残りの二十万は、戦時でもなくなることのない後方の警備任務や、前線に送られた将兵の交代要員という位置づけであった。

 それが、果たして今、どれくらい残っているのか。

 ここ数年続いた戦乱の影響で大きく目減りしていることは間違いなかった。

 なにしろ、皇帝の親衛軍と並んで帝国軍の中核を成していた五つの公爵家が陣営を分かち、全力で戦ったのだ。

 しかも南のズィンゲンガルテン公国は、前年にサーベト帝国からの侵攻を受けただけでなく、そのさらに前の年にはアルエット共和国軍との決戦であったラパン・トルチェの会戦で出征していた軍の大半を失うという大打撃をこうむっていたから、その軍隊は実質的に壊滅状態と言える。

 内乱が終結した結果、すべての諸侯が戦いの勝利者であるエドゥアルドに従う旨を申し述べて来てはいるものの、帝国陸軍の参謀総長についたアントン・フォン・シュタムの試算によれば、現状の帝国で動員できる総兵力は三十万をやや超える程度に留まるのだという。

 由々しき問題であった。

 敵は五十万という兵力を動員できるのに、こちらはその六割程度しか集められないのだ。

 頭数だけであれば、なんとか集められる。

 タウゼント帝国はヘルデン大陸の大国であり、国土が広く、それに比例して人間も多い。

 近年は、海外で発見された新しい作物の普及、四周期輪作などが行われ農業の生産性が向上したことから、人口は増加し続けている。

 そうした人々を連れて来て、[軍隊]を[自称]することは容易だった。

 だが、それでは戦力とは呼べない。

 マスケット銃を撃てる、というだけでなく、整然と隊列を組み、敵を前にしても果敢に行進することのできる[兵士]でなければ、この時代では有効な軍事力とは見なされない。

 一般的に想定される軍事行動に耐え、士官の命令に従って進退し、鉛玉の一斉射撃を行える、という程度にまで教練するには、半年はかかるだろう。

 戦乱で失われた兵力を再建するためには、一度にあまりにたくさんの人数を訓練する人手も金も場所も足らないということで半年では済まず、現実には年単位が必要になるというのが実情だった。

 加えて、タウゼント帝国はエドゥアルドの手で旧態依然とした体制から脱却する途上にある、という問題がある。

 具体的には、軍権が中央政府、すなわち代皇帝の下に集約されていない、という点だ。

 帝国は封建制の国家だ。

 諸侯に対しそれぞれの領地の統治権を認め、そこで暮らす人々から徴税する権利を保証する代わりに、皇帝の支配を受け入れ、有事になれば定められた軍役を果たす。

 そういう仕組みで、一千年以上もの歴史を重ねて来ている。

 つまりは、諸侯がそれぞれ編制している部隊については、代皇帝といえども限定的な介入しかできない、ということだった。

 エドゥアルドが帝国軍の指揮権を自身の下に集約し、部隊を好き勝手に編制して、思い通りの軍隊を形成するというのが、できないのだ。

 急に、これまでのやり方を変えるから、諸侯も自身の軍隊の装備や編制を変更せよ、と命じてもなかなか受け入れられないだろう。

 代皇帝がすべての軍権を掌握するから、指揮権を返上せよ、などと命じようものならば、反乱祭りが開催されるのに違いなかった。


「まずは、陛下の手元にあります、皇帝直属の軍と、ノルトハーフェン公国軍から着手する他はございません」


 そう諦めがちな口調で言ったのは、参謀総長のアントン・フォン・シュタムであった。

 かつて帝国陸軍大将という階級と、伯爵という爵位と相応の門地を持っていた彼は、共和国軍との決戦であるラパン・トルチェの会戦に敗北したことの責任を一身に背負って軍を辞任し、領地も返上して、自決さえしようとした人物だ。

 そこを、その能力を見込んで必死にエドゥアルドがスカウトし、メイドのルーシェの思わぬ活躍などもあってノルトハーフェン公国の客将となり、参謀本部という新しい組織と参謀という新しい役職の将校を誕生させ、ノルトハーフェン公国軍を帝国随一の精鋭に育て上げたという経歴を持っている。

 ———そんな彼をもってしても、タウゼント帝国が千年以上も守り続けてきた封建制という体制を前にはお手上げ、といったところである様子だった。

 その、アントンの口から出た珍しい弱音を聞いた時、エドゥアルドは肩をすくめながら答えたものだ。


「まずは、範を垂れることから始めていこう」


 諸侯の軍権に介入できないというのならば、それでもいい。

 自分たちの手の及ぶ範囲で改革を行う。

 そうしてモデルを示し、それだけでなく、実際の力量も見せれば、諸侯も自然に、そして必死に、それを模倣しようとし始めるのに違いない。

 やがて国家の軍事力は一元化しなければ危ういと気づけば、望もうと望むまいと、皇帝の下に軍権を委ねよう、という機運が生まれる可能性だってある。

 エドゥアルドは、まだ二十歳にも満たない若さだった。

 だから、焦燥感に焦がされつつも、先のことを見つめる余裕を持つことができていた。

 これから自分の統治は数十年にも及ぶ。

 それだけの期間があれば、きっと、チャンスが訪れることだってあるのに違いない。

 性急にことを成そうとして人々からいらない反発を招くよりも、できることを着実に重ねて、そして、論よりも証拠で示していく。

 そのような考えの下でエドゥアルドが着手した軍事面での改革は、三本柱で成り立っていた。

 ひとつは、帝国の直轄領での徴兵制の実施。

 もうひとつは、ノルトハーフェン公国軍を参考に、皇帝の親衛軍を再編すること。

 みっつめは、士官学校の大幅な拡充と、平民の登用であった。


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