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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第三章:「課題山積」

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・3-15 第34話:「軍備再編:1」

・3-15 第34話:「軍備再編:1」


 エドゥアルドが代皇帝となってから、すでに三か月が経とうとしていた。

 幸いなことに、未だに、アルエット共和国軍が大挙して国境を破って押しよせてきた、という報告は受けていない。

 諜報によると、ムナール将軍はバ・メール王国を完全に制圧した後、共和国の首都、花とうたわれるオルタンシアへと凱旋がいせんし、将兵らと共に派手なパレードを行ったらしい。


(即座に進撃をされなくて、良かった……)


 その報告を聞いたエドゥアルドはそう思ってほっと胸をなでおろすのと同時に、怪訝けげんにも思っていた。

 バ・メール王国が陥落した段階でそのままタウゼント帝国に共和国軍が攻撃を開始する、というのが、想定された中での最悪のシナリオであったからだ。

 現在の帝国は、過去に例をみないほど脆弱な状態にある。

 内乱が終結したばかりで国内の統治は万全とはいえず、少年代皇帝が着手した様々な改革もまだスタートラインを切ったばかりで、成果は見えない。

 互いに争い合った結果、決して浅いとは言えない傷を負った帝国軍の軍備の建て直しも、帝国軍内にノルトハーフェン公国のものを基礎として参謀本部を立ち上げたアントンが中心となってその計画を立案している、という段階なのだ。

 ここに本格的な侵攻を受けていたら、果たして、納得のいく対処ができただろうかと自問すると、できなかったのに違いないと、そう思う。

 ムナール将軍も、同じ思いを持っていたはずだった。

 攻める好機は、今だと。

 それなのに、なぜ、軍を一度引きかえさせ、凱旋がいせんパレードなどを行っているのか。

 どうして、気づいているはずの[戦機]を見送ってしまったのか。

 得られた情報をいろいろ分析してみると、いくつかの理由が考えられそうだった。

 ひとつは、純粋じゅんすいに軍の体制が整わなかったから。

 主に補給の面だ。

 共和国軍は五十万にも及ぶ大軍を興したが、この大兵力でタウゼント帝国に攻撃を加えるためには当然、相応の物資を用意し、前線に輸送できる体制を構築しければならない。

 現地である程度は調達するとしても、数十万もの人数を養えるほどの地力がある場所などない。

 タウゼント帝国軍でさえ、普段からの物資の集積や補給システムが完備された自国領内だ、という事情を加味して、やっと一方面に二十万程度の軍隊を展開することができるだけなのだ。

 外国の軍隊が同様のことをしようとすれば、かつて帝国軍が共和国に侵攻した時に陥った事態のように、現地で略奪を行ってもまだ十分に腹を満たせないということになってしまう。

 そうなれば、戦闘で勝敗を決する以前の問題で、勝手に部隊が壊滅することになる。

 五十万という数は脅威ではあるのに違いなかったが、その数のために、バ・メール王国を下した余勢を用いて即座に侵攻を開始する、という、最良の軍事的選択を行えなかった、というのが実情らしい。

 もうひとつの理由は、アルエット共和国の国内の政治事情がある様子だった。

 共和国では、その名の通り、貴族による支配は行われていない。

 平民から選ばれた国民の代表である議員が集まり、議会によって物事を決定し、議会の中から選ばれた者たちが内閣を結成して実際の行政などを指揮している。国家元首が誰になるのかは、制度が確立されておらず錯綜さくそうしているために判然とはしない。

 そんな彼らにとって、かつて革命戦争を成功させたムナール将軍は建国の恩人であるのと同時に、最大の脅威でもあった。

 将軍がアルエット共和国内で有している知名度、人気は、圧倒的だ。

 不可能と思われた戦いを勝利に導き、貴族による支配を終わらせ、さらにはタウゼント帝国とバ・メール王国という二つの国家が手を組んで同時に侵攻してくるという存亡の危機を跳ねのけた。

 南に向かってはフルゴル王国を実質的な支配下に置き、北に向かってはバ・メール王国を下す。

 まさに、英雄。

 共和国に暮らす人々の間で、アレクサンデル・ムナールという名前は燦然さんぜんとした輝きを放つ、沈まぬ太陽そのものだった。

 そんな人物が、数十万もの兵力を有する巨大な軍事力を手足のごとく指揮して、中央政府の意志の及ばない遠隔地に向かう。

 それは、共和国の政治家たちにとっては、悪夢だった。

 もし仮にムナール将軍が政府の権力を否定し、自立を宣言した場合、それを阻止できるものがなにも無いからだ。

 国内に彼に匹敵する将帥はいない。

 単純な指揮能力や作戦能力で見れば優秀な人材は他にもいるのに違いなかったが、ムナールが有する圧倒的なカリスマ、人々からの人気、そしてこれまでに築き上げてきた勝利の名声までも考慮すると、勝ち目はないと言っていい。

 政府が軍を編制して差し向けたとしても、兵士たちはムナール将軍と戦うことを拒否して逃げ出すか、悪ければ部隊ごと寝返り、熱狂的に国家の英雄を出迎えてしまうのがオチだろう。

 なんなら、討伐を任せた指揮官自身がそのまま離反することさえ危惧される。

 それだけ、アレクサンデル・ムナールという名前は力を持っている。

 だから、そんな存在にずっと強力な軍隊を持たせておくことはできない。

 バ・メール王国の制圧が成せたのなら軍を率いて一度帰還させ、部隊と引き離しておきたい。

 それが、共和国内の政治の都合であった。

 首都・オルタンシアで行われた派手なパレードは、言ってみれば、まやかしであった。

 実際はムナール将軍のことを恐れているのだが、盛大に祝福して見せることで表面的にはその不和を押し隠し、民衆には政府と国家の英雄の連帯を見せつけ、内々にはこういった処遇をすることで将軍の心中に生じるのに違いない不快感を軽減する。

 そういう思惑があったらしい。


(貴族の政治も大概だが……、平民の政治も、大変なのだな)


 エドゥアルドは半ば呆れ、半ば感謝しつつ、こうして生まれた時間的な余裕の間に、ようやく形が見えつつあった軍備再編計画を推し進めることを決めていた。


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