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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第三章:「課題山積」

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・3-14 第33話:「殖産興業:2」

・3-14 第33話:「殖産興業:2」


 エドゥアルドが帝都に呼び寄せた、もう一人の人物。

 それは、帝国諸侯の誰でもなかった。

 オズヴァルト・ツー・ヘルシャフト。

 ノルトハーフェン公国に本拠地を置く大商人・実業家であった。

 オズヴァルトは、どっぷりと膨れた樽腹たるばらを持ち、自力ではまともに歩けないほどに肥満しているために杖まで使っているような、際限のない強欲さを持っているのではないかと思わされてしまう外見を持った人間だ。

 だが、その商才は本物だった。

 彼は公国の経済の中心地、その名前の由来ともなったノルトハーフェンの港町に本社を置く[ヘルシャフト重工業]の経営者であり、最近では公国軍のみならず、帝国軍を支える巨大な軍需企業に成長していた。

 帝国諸侯が兵士たちに装備させている小銃や、大砲。

 それらのかなりの割合が、ヘルシャフト重工業が生産したものなのだ。

 他にも軍需企業というのは帝国にあるのだが、オズヴァルトが経営しているものが最大手になったのは、その優れた経営力、高い技術力と、エドゥアルドと協力したことによって獲得した大きな資金力とによってだった。

 ノルトハーフェン公国の実権を掌握した少年公爵は、かつて、この商人が必要とする資金を国庫から支援する見返りに、その保有する武器工場を半国営化する、という契約を結んだことがある。

 軍需産業というのは、平時においては経営不振に陥りやすいものだった。

 実戦がなければ武器の消耗というのは穏やかなもので、効率的な生産設備を整えても開店休業状態となるのが常であり、ヘルシャフト重工業も武器以外のものを生産してなんとか糊口ここうをしのいでいる、という状況だった。

 しかし、半国営化されたことで、その経営上の課題はかなりの部分が解消され、オズヴァルトは積極的に投資を行ってその生産能力を拡充した。

 タウゼント帝国が立て続けに戦争に直面した、というのも、彼にとっては追い風であった。

 いわゆる特需、というものが起き、作ったら作っただけ製品が売れたからだ。

 しかも蒸気機関を利用した最新の生産設備を導入して作られたそれらの品々は、大量生産品であるのにも関わらず品質が高く、各諸侯は競うようにして求めるまでになった。

 エドゥアルドがノルトハーフェン公国で徴兵制を導入し、半国営のヘルシャフト重工業に必要な武器の生産を一任した、というのも追い風だ。

 加えて、鉄道事業を開始したことも、大当たりした。

 クルト男爵が構想した鉄道を実際に運営しているのは、オズヴァルトが設立した鉄道会社だった。

 元々は、鉄鋼系の加工技術に長けた企業を経営している、という利点を生かし、平時に兵器の需要が失われた際にも安定した収益を得られる新しい産業として、多くの鉄鋼を加工しなければ製造できない機関車やレールを作る、という目的で参入を計画したものだったが、路線が開通し運行を開始して以来、予期していた以上に順調に利益があがっている。

 今やオズヴァルトは、ノルトハーフェン公国一、いや、帝国で一番の大資本家となっていた。

 そんな彼を呼び寄せたのは、第一に、引き続き鉄道事業で協力を要請するためであった。

 計画の立案から具体化まで、行政側の統括者としての経験者がクルトであるのなら、オズヴァルトは、実際の建設と、鉄道車両の製造・整備・運用と、実務面での経験者であった。

 その力があれば、帝国の鉄道網の建設は最大効率で行うことができるだろう。

 そして第二に、帝国軍の活動を将来に渡って支える、軍需産業を建設するためであった。

 アルエット共和国は、これまでに聞いたこともない規模の大兵力、五十万を超える軍勢を動員してバ・メール王国を制圧した。

 これは、総合的な国力、従来の指標で言うところの国土の広大さ、人口の多さで上回っているはずの帝国が根こそぎ動員した場合の兵力を優に上回るほどの規模だった。

 その全戦力をひとつの方面に投入することは諸々の問題で不可能であるのに違いなかったが、戦争での勝利を確実なものとするためには、こちらもこれに匹敵するか、より有利な戦力を準備しておきたい。

 そのために、エドゥアルドはノルトハーフェン公国で実施したように、タウゼント帝国全体で徴兵制を導入することを計画していた。

 しかし、人間がいるだけでは、戦争などできない。

 彼らを十分に訓練し、武装させ、そして活動し続けることができるように補給を始めとする兵站を用意しなければならない。

 そのために、軍需産業の規模を拡大する必要があった。

 大軍同士の衝突で生じる損耗を補い続けることができるだけの生産力を確保しなければならない。

 まずオズヴァルトに声をかけたのは、彼が以前からエドゥアルドとは協力関係にあり交渉がしやすいというのと、その強欲さにはまったく親しみを感じなくとも、経営手腕という点について信頼しているからだった。

 もちろん、彼ただ一人だけに頼るつもりはなかった。

 いくら効率的だからと言ってひとつの企業にだけ肩入れするのは、その影響力を肥大化させ、こちら側の制御が効かなくなる、という恐れがあったし、兵器類の進化に追従し続けるためには多様な技術を有する、複数の企業があった方が望ましいからだ。

 オズヴァルトは表面的にはにこやかに、こびへつらった様子で、エドゥアルドからの協力要請を受け入れてくれた。

 兵器類の生産にも使えるが、なにより国家の成長に不可欠な鉄鋼の生産量を拡充するため、ノルトハーフェン公国以外の帝国の直轄地にも然るべき用地を見つけて製鉄所を建設し、さらに軍需工場も新設する。

 これらには、オズヴァルトが自らの資本を出すが、国庫からも相当な支援を行う、という約束だ。

 鉄道網と、製鉄所の新設、兵器の生産能力の拡充。

 これらは手始めであり、他にも、オズヴァルトとは別口で、街道の整備や、運河網の拡充、民生品を生産する工業の支援なども決まって行った。

 こうしてエドゥアルドは、国債を発行したことによって得た資金の使い道を定め、帝国の経済を拡大する道筋を確かなものとした。


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