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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第三章:「課題山積」

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・3-11 第30話:「財政難」

・3-11 第30話:「財政難」


 タウゼント帝国の国土は、ヘルデン大陸の中央部に大きく広がっている。

 そこに暮らす人々を統治する行政区分は、封建社会の時代を引きずったまま、三百を超える諸侯の領地と、皇帝の直轄領とに大まかに分割されて実施される。

 帝国の大臣、官僚たちが直接その権限を振るうことができるのはその直轄領だけであり、他の諸侯に対しては皇帝の名において法令を発布することによって、間接的に統治を行うという形だった。

 諸侯が治める領地については、あくまでその貴族のものであり、その意向を無視して一方的に法や制度を押しつけられないという、緩い中央集権体制、あるいは強い地方分権制というのが現状だ。

 この強い地方自治権のおかげでエドゥアルドはノルトハーフェン公国を自身の望み通りに改造し、平民への参政権を認めることさえもできた。

 こうした制度をとっているタウゼント帝国では、三百を超える諸侯はそれぞれ独立した統治を行っているから、帝国の中央政府はそこから税収を得ることは原則的に許されない。

 封建とはそもそも、そこに暮らす人々からの徴税権を認める、ということと同義でもあり、その権利を侵犯することは皇帝の権威を根底から揺るがすものであったからだ。

 他国では重要な収入源となっている、貿易に伴う関税の徴税権さえも、帝国では諸侯に分与されている。

 自発的な上納、という形で慣習的に諸侯それぞれの収入の一部を国庫に納める、ということは行われていても、あくまでそれは一部に過ぎない。

 ———帝国が、慢性的な財政難を抱えている、というのは、こうした、国家の収入が限られている、という点に原因があった。

 広大な国土の過半から税収を得られないのに、国家としての義務は皇帝を筆頭とした中央政府が責務を負っている。

 たとえば、外交に関わること。対外折衝のためにかかる費用はみな国庫から出されている。国賓を招いた際のもてなしには国威を損なわないように常に相応の費用がかけられていたし、国家間の条約を結ぶための交渉には、使者の派遣費用だけでなく、有力者からの協力を取りつけたり、こちらの要求を受け入れたりしてもらうための見返りとして贈答品も必要で、なにかと金がかかった。

 他にも、国防がある。諸侯には軍役が定められており戦時には招集されて戦うが、その活動に必要な費用は貴族たちの側が全額を負担するのではなく、皇帝が補助しなければならないという決まりになっているし、国境警備のために動かされる人員の運営費用も支援している。他にも、タウゼント帝国軍の中核となる帝国陸軍を編制し、運用してもいる。

 加えて、戦で戦功をあげた者には、国庫から報奨金を支払わなければならない。

 対外的な戦争で領土を獲得できていればそれを分配する、ということもできたが、分割するべき[パイ]を得られなければ配ることはできない。だが、なにも与えることができない、というのならば、諸侯の不満が溜まり、反乱につながりかねなかったし、次からまともに軍役の義務を果たさなくなるかもしれないから、無理をしてでも金を出す必要がある。

 国家としての機能を維持するために、警察や消防や、土木工事などの基本的な行政機能、争いごとを解決するための司法機関なども、原則的に国庫からの支出で運用されている。

 諸侯がそれぞれの領地で行政を行っているのだが、帝国全土でほぼ同レベルの行政サービスを提供するためには中央が支援し、指導する必要があったし、駅伝制といった国家事業の費用も分担はさせているが国庫からも支出して運営している。特に、国家の運営上重要と見なされるインフラ施設、重要な幹線道路や、河川と河川を行き来するための運河の維持のためにも資金を出している。

 これら、国策として行われている事柄を実行し、維持していくためには、国庫から金を出さないわけにはいかないのだった。

 とにかく、金。

 国家の運営には、金がかかる。

 それなのにタウゼント帝国の国庫への収入は、封建制という国家の根幹をなす制度によって制限されている。

 もちろん、こうした国としての歳出をまかなえる様に、皇帝は大きな直轄地を有してはいる。

 だが長い歴史の間に元々持っていたもののいくらかは新しく創生された諸侯の領地となったり、顕著な戦功の褒賞ほうしょうとして与えられたりしていたし、なにより、多額に及ぶ財政を限られた財源だけで支え続けるのには限度があった。

 おかげで、帝国は現在、多額の借金を抱え込んでいる。

 いったい、どれほどの金を借りているのか。

 ———その金額を知らされた時、エドゥアルドは眩暈めまいがするような心地になった。

 額が、ノルトハーフェン公国の統治を行っていた時に見たどんな数値よりも桁が違った、ということ自体は、予想していたので驚きは少なかった。

 しかし、それがすべて借りたもの、すなわち、将来利息をつけて返済しなければならないものだと考えた時、思わず「無茶だ! 」と言いそうになってしまうほどだったのだ。

 一千年以上も、積もりに積もって。

 特にここ何年かで、一気に膨らんだのだという。

 それも当然だった。一昨年はアルエット共和国に侵攻するために大軍を動員し、昨年はサーベト帝国からの侵略を退けるために長期間軍事行動をし、今年は内乱で国政が混乱、と、収入が目減りするのに支出ばかりが増えるという事態が立て続けに起こっていたからだ。

 借金を返すために、借金をする。

 あるいは、債券者と交渉して、なんとか返済の期日を先延ばしにしている。

 それほどの事態に陥ってしまっている。

 これから、エドゥアルドがなにかをしようと考えたとしても、この財政難を解決しなければどうにもならない。

 人や物を動かすためには費用がかかる。

 そしてそのための予算をつけられないということは、なにもできない、ということとイコールになっているからだ。

 この財政難に立ち向かうことが、エドゥアルドが帝国の政権を取って、もっとも最初に直面した困難であると言ってよかった。


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