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メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第三章:「課題山積」

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・3-3 第22話:「酷い身なりの男:1」

・3-3 第22話:「酷い身なりの男:1」


 懐かしい相手に、大切な家族に、再会することができた。

 それだけでも余りにも嬉しいことだったが、おまけにもう一つ、いいことがあった。

 暇ではなくなったことだ。

 ついたばかりでこちらのことには不慣れなマーリアにホテルの内部を案内し、彼女のための部屋の用意をしなければならなかったし、オスカーとカイが暮らしていけるように準備を整えてやらなければならない。


「いいホテルね。内装はしっかり丁寧に作られたものばかりだけど、派手過ぎなくて、なんだか落ち着いた雰囲気。これならエドゥアルド様も安心して政務に専念できるでしょうね」

「はい! 他の従業員の方たちも物腰が優しくて、親切で、良くして頂いてるんです! 」


 率先してマーリアの前を歩き、案内をしながら、ルーシェはにこにことしている。

 営業スマイルなどではなく、本心からの笑みだ。

 そしてそんな二人の足元を、犬のカイがトコトコと歩いている。ゆらゆらと尻尾を振りながら、これから暮らすことになる場所を楽しそうに見学していた。


「カイ。あんまりあちこちをうろついてはダメよ? とっても広い建物なんだから、いくらあなたが賢くても迷子になってしまいますからね。あっちこっち探し回るのなんて、嫌だからね? 」


 今にも興味に引かれてどこかへ行ってしまいそうなカイに、ルーシェはしっかりと釘を刺しておく。彼は忠実な性格をしていたが、時々我を忘れてはしゃいでしまうことがある。


「いいこと? オスカー。あなたもですからね、……って、もういないし」


 次いでメイドは猫のオスカーにも注意しておこうと思ったのだが、すでにその姿はなかった。

 自由奔放な性格をしているために、施設の案内を始めて早々に、見られていない内にどこかへ行ってしまったのだろう。

 探しに行こうかとも思ったが、まずはマーリアに案内を済ませるのが先だ、と考え直したルーシェは、勝手な行動をするオスカーが少々痛い目を見て反省しますようにと祈りつつ仕事を続けた。

 そうして時間を過ごしている間に、段々と日が傾いて来る。


「ぇえ~っ!? エドゥアルドさま、帰りが遅くなられるのですか!? 」

「ええ~、じゃ、ありませんよ、ルーシェ。公爵でん……、いえ、代皇帝陛下はお忙しいのですから」


 案内を終え、オスカーとカイのための寝床やらなんやらを整え、エドゥアルドの部屋に戻って待機しながら徐々に茜色の度合いを増してくる空を眺めていたルーシェだったが、今後の主の予定をシャルロッテに教えられるとあからさまにガッカリとしてしまっていた。

 まるで彼女のテンションの下がりようを体現しているかのように、黒髪のツインテールが力なく垂れ下がる。

 また、時間を持て余すこととなってしまった。


「オスカー、探しに行ってあげようかしら? 」


 去っていくシャルロッテを見送り、仕方なく空を眺めるのに戻ったルーシェは、足元でうずくまっているカイの毛並みを撫でてやりながら、ふと、オスカーがまだ帰ってきていないことについて考えていた。

 彼が姿を消すのは、よくあることなのだ。

 あの、我こそが真のボスだ、と言わんばかりにふてぶてしい、不遜ふそんな態度でいる猫が、こちらの都合や心配などおかまいなしに出かけたまま、帰って来ない、などということは、これまでに何度もあった。

 時には、一日か二日、いないことだってある。

 ノルトハーフェン公国にいたころはそれでも良かった。勝手知ったる場所だから、ちゃんと戻って来るだろうと信じることができたし、実際、オスカーはいつもルーシェとカイの下に帰ってきてくれた。

 だが、ここは帝都・トローンシュタットだ。

 以前暮らしていたノルトハーフェンの港町や、公爵の住む城館、ヴァイスシュネーのある公都・ポリティークシュタットも賑やかな街だったが、ここはヘルデン大陸の大国・タウゼント帝国の中枢であり、規模が違う。

 行きかう人々、馬車の数も一段と多い。表通りはよく整備されていて道が分かりやすく迷う心配もないが、裏通りに入ればそこは複雑で薄暗いためになかなか行きたい場所にたどり着けない。

 そんな場所にノコノコと入り込んでしまったら、さすがのオスカーといえども帰って来られなくなってしまうのではないか。

 そう、真剣に心配し始めていた時のことだ。

 部屋の扉が、外を警備している衛兵の手でノックされる。

 ———エドゥアルドが帰ってきてくれたのか。

 そう思って扉を開けたルーシェだったが、そこには、ふかふかの赤絨毯あかじゅうたんの上で座っているオスカーの姿があった。


「ああ、そっか。扉、自力じゃ開けないものね」


 すぐにメイドは状況を理解していた。

 以前暮らしていた場所では、エドゥアルドが手を加えあちこちの扉にオスカーやカイが自由に通行できるように専用の通路を用意してくれていた。だから彼らは気のおもむくままにうろつくことができたのだが、このホテルではそうはいかない。


「おかえり~、オスカー。お腹空いた? ごはん食べる~? 」


 帰りが遅くて心配になり始めていたところでもあり、ほっとして笑顔になったルーシェは、衛兵に礼を言ってからオスカーの前にしゃがみこんで、頭でもなでてやろうとにこにことした笑顔で手をのばす。

 しかし、グレーの毛並みを持つ猫は、その手をするり、とかわし、少し距離を取ってからまた前脚をそろえてお座りして、じっと、こちらのことを見つめて来る。


(呼んでる……)


 その行動で彼がなにを訴えかけてきているのか、心当たりがあった。

 そして「どこに来て欲しいの? 」と問いかけると、そのセリフを待っていたかのようにオスカーは立ち上がり、一度「ついて来い」と言うようにルーシェを振り返って尻尾を振ると、スタスタと歩き出す。

 怪訝けげんに思いつつも、その後を追いかけて行ったメイドは、そこで、———酷い身なりの男を見つけていた。


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