街道の魔物
魔物が多数観測された町、ラナベールへとユーク達は進路を向け旅を始める。道中については特に問題はなく、順調に旅程を消化していく。
その間に情勢を調べると、まずディリウス王国はログエン王国で組織壊滅したのを確認すると、勇者などに対する調査を打ち切った。組織そのものが潰れた以上は勇者オルトが引き起こした騒動については収束した、という考えのようだった。
ユーク達からすれば敵の思うつぼではあるのだが、国が手を引いたことで組織側も油断するだろう――ということでむしろこの方針を歓迎した。そしてアンジェによる報告で色々な勇者と出会って知見を広める――その旨を伝えると国側も了承。ひとまず旅を続けることが認められた。
ただし「いずれ王都へ来て欲しい」という内容は返信の手紙にしっかり記述されていた。そこについてはひとまず「次回報告書を送る時は穏当に誤魔化して」とユークはアンジェへ指示し、ひとまず終わりとなった。
「あまり時間はなさそうですけれど」
街道を歩いている時、返信された手紙のことを話しているとアンジェは言った。
「事件は解決したし、もう旅をする必要はないだろ、みたいな雰囲気ですよね」
「ここは予想できたし、組織側としてもそれを望んでいるだろうな」
「……もしや、私達の動きを制限するために傀儡の人間を使って?」
「さすがに俺達に対処するために、というのは言い過ぎだと思う。けど、国が動いているのを対処するために作戦を実行し、ついでに俺達の動きも封じてやろう、という感じではあったと思う」
ユークは語りながら小さく肩をすくめた。
「ま、ある程度勇者を交流して組織に繋がる手がかりを見つけることができれば、一度王都へ出向いてもいいかな」
「……ユーク様、おとなしく王都に居座る気はなさそうですね」
「ああ。それにほら、王都に入ったのであれば信頼できる人へ密かに組織のことを伝えることはできるし、やりようはある」
「そうかもしれませんが……なんというか、ユーク様としてはあまり王都へ近づきたくないのですか?」
(単に面倒なんだけどな……)
そもそもユークは旅がしたいと思って家出をしている。結果的に国を脅かす組織が存在したためそれを追い掛けているという構図である。
王都へ赴いたら当然ながら大きな屋敷に押し込められるだろう。なおかつ功績があろうが魔法学園に強制的に入学して勉強することになる――とユークは予想している。そういう生活を拒絶しているわけではないのだが、今は旅を続けたいという思いが強い。
(できれば王都に立ち寄らずになんとかしたいんだけど……無理かなあ)
ユークは胸中でぼやきつつも、アンジェを見る。
(彼女のこともあるし、一度は顔を出すしかないか……覚悟はしておこう)
もしラナベールの町で組織に関する情報を得たのであれば――王都を訪れるのはそう遠くないかもしれない。
(それに、組織側の人間が確実にいるであろう場所なわけで……情報集めをするにしても重要だよな)
とはいえ、今はひとまず旅を――ユークは結論を出しつつ、街道を見据える。
「アンジェ、これから勇者達と顔を合わせることになるんだけど――」
そこまで言いかけた時、ドオンと真正面方向から大きな音が聞こえた。ユークとアンジェは互いに顔を見合わせた後、駆け出す。
少し進むと音の原因が見えてきた。馬車が一台横倒しになっている。そして、馬車の周辺には複数の人間と、四本足を持つ大きな魔物が一体いた。
「襲われている……?」
走りながらアンジェが呟く。
「街道に出現した魔物のようですが……」
「近くに雑木林がある」
ユークは進行方向に対し左手に林があるのに注目する。
「そこから魔物が姿を現し、馬車を狙って突撃した。そして、逃げ切れなかったため横倒しになったといったところだろう」
街道を疾走しながらユークは解説する。魔物はうなり声を上げ馬車や周辺の人を威嚇している段階――まだ、間に合う。
ユーク達の速度はかなりのものだが、それでもやはり距離があるため到達にはもう少し時間が掛かる――その間に状況が変わる。魔物がとうとう人間に狙いを定めた。
おそらく馬車に乗っていた人なのだろう――旅人と思しき人物は魔物から逃げようとしたが、後ずさりした結果姿勢を崩して尻餅をついた。誰の目から見てもまずいという状況の中で、いよいよ魔物が攻撃を仕掛ける。
ユークはさらに速度を上げる。間に合うかどうかはギリギリのレベル。しかし、ここで間に入らなければ――魔物が座り込む人物へいよいよ、という段階となって新たな変化が。
ユーク達が助けに入る寸前、旅人の後方から魔物へ仕掛けた人物がいた。剣を握るのは女性で、白銀の装飾のない鎧を着た、燃えるような赤い髪を持った人物。
次の瞬間、魔物の攻撃を剣で真正面から受けると――流麗な動きで反撃に転じた。




