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戦場の勇者

 ユークが戦場に辿り着いた時、街道は魔物と騎士、戦士が乱戦を開始していた。魔物の見た目は動物を象ったものが多いのだが、中には人型もいる。

 そして見た目はどこか虚ろで、あくまで形を真似たくらいの、出来の悪い等身の人形とでも呼ぶべきもの。色も全てが黒く、頭部には目も鼻もない――が、唯一口は存在しているらしく、狼を象った魔物は口を開け兵士の首筋に食らいつこうとする。


「はっ」


 そこにユークの援護が入った。今まさに兵士へ迫ろうとした魔物を横から斬る。それで魔物は動きを止め消滅。兵士はすぐさまユークを見て、


「ありがとうございます」

「どういたしまして……っと!」


 返事をする間にも騎士へ狙いを定めていた魔物へ一閃し、滅ぼす。


(会話をしている暇はなさそうだな)


 ユークはどう戦うか思案する――乱戦であるため広範囲系の魔法は味方も巻き込むため使用できない。となれば、


(戦場を見て危なそうなのをフォローしていくか)


 考えた矢先、魔物に苦戦する戦士の姿を発見。そこでユークは左手に魔力を集め、光弾を生み出す。


「はっ」


 そして軽く腕を振って放つ――光弾はユークの想定した軌道を描き魔物の頭部へ直撃し戦士を助けることに成功。

 次に近くで騎士へ襲い掛かる魔物が複数体いるのを目に留め、即座に間合いを詰めて一体を斬った。数体の魔物に攻撃されようとしていた騎士は動揺していたのだが、思わぬ援護ですぐさま態勢を立て直し、魔物一体へ向け剣を振った。


 その間に別の魔物を斬って騎士は虎口を脱する――ユークはとにかく目についた魔物を片っ端から倒していく。全て一撃で仕留めることができ、なおかつ戦士や騎士はユークの援護によって虎口を脱していく。

 魔物を倒すというよりは、戦況を改善するためにユークは動く――救援の速度は他者から見れば異常であり、もし観察している者がいたら「何だあの剣士は」などと思ったに違いない。

 とはいえユークは目立つ可能性すらも考慮していた。戦場にいる者達、その目線を瞬時に把握し、継続的に自分の姿が映らないように立ち回っていた。


 普通、そんなことまで考慮する人間などいないし、まして乱戦という状況においてそこまで考え実行に移すなど、到底出来ないはず――なのだが、ユークは涼しい顔でこなしていた。


 ――勇者の証を持ち、史上最強勇者と言われるような実力が、それを実現していた。魔法を撃ち、剣を薙ぎ、戦場を把握し、短時間で目に見えて魔物の数が減っていく。そこで戦士や騎士は立て直し、やがて乱戦という状況から脱していく。


「……そろそろ、いいかな?」


 騎士の動きが良くなったのを見計らい、ユークは一度後方へ退いた。断続的に街道からは戦士や兵士がやってきている。援軍には事欠かない様子であり、同時に魔物の群れの数は増えていない。これならば大丈夫だろうと考え、ユークは後方にいる怪我人へ目を向けた。

 負傷はしているにしろ、命に関わる怪我を負っている人間はいない。とはいえ出血がひどい人間もおり、ユークはいち早くその人物へ近づき、治療魔法を掛けた。


「す、すまん」


 思わぬ治療に驚きつつ応じる戦士。魔法により短時間で傷が塞がると、


「応急処置はしましたが、何かの拍子で傷が開く可能性があります。戦場を脱したらお医者さんに診てもらってください」

「ありがとう、助かる」


 ユークは他の怪我人に目を向ける。戦士や騎士の戦う声が聞こえる中、淡々と怪我人を治療していく。

 やがて、魔物の気配が限りなくゼロに近くなる。戦士や兵士を治療する間も気配だけは探り続け、騎士達が一気に押し込んだのを見た時、小さく息をついた。


「終わりそうだな」


 その時、歓声が上がった。最後の魔物を倒したようだ。

 魔物の群れは混乱をもたらしたが、大きな被害を出すことはなく討伐することができた。ユークの周辺にいた戦士や兵士も戦いの勝利に喜びの声を上げる。


 そうした中でユークは淡々と仕事をこなす――誰かに指示されたわけではない。おそらくこれが最適な動きだろうと考えた結果だ。


(戦いながら魔物の能力と騎士や戦士の能力を把握。後は任せてもいいだろうと考え怪我人の治療……うん、まずまずかな)


 内心でユークは結論をまとめつつ、さて町へ戻るかと踵を返そうとする。そこで、


「――しかし、今回の魔物はどういうわけだ?」


 戦士同士が会話をしているのを小耳に挟む。


「これだけの数、魔物が突如出現するとかあまりなかったよな?」

「原因調査はこれからだろ。近くの森や山の中に瘴気溜まりがあればこのくらいの数にはなる。もしそういうのがなかったら……」


 ユークはそこまで聞いて戦士達から離れた。後続からはまだ兵士などが駆けつけてくるが、既に終わったということで無駄骨だったとため息を吐く人間もいる。


「……調べた方がいいのかな?」


 ユークは先ほどの会話が気になり、どうしようか悩み始め――それは町へ戻るまで続いたのだった。


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