新たな依頼
ユークはその後、入った店で一本の剣を得た。五日間眠らず仕事をして稼ぎに稼いだ資金をほぼ投入するくらいの一品。とはいえ元々持っていた剣を評価してくれたのか、下取りの値段を加味し、それなりに割引してもらい購入できた。
剣は無骨な見た目でありながら、刀身は相当な魔力を抱えられるだけの器を持ち、刃の輝きにうっとりするくらいの一品だ。
「頑張れよ」
「はい、ありがとうございます」
店主に礼を述べたユークは店を出た。これで剣を手に入れることには成功した。
「思った以上にお金も残ったな……このまま外套とかも買うか」
旅に必要な物を買い集める――ユークはその足で次の目的地へと向かった。
結果として稼いだ金を全てを投入し、装備を整えることはできた。外套と防具は藍色を基調とした地味な配色の物。そして黒いブーツにベルトに付けられたポーチが一つ。とはいえ中身はまだない。消耗品に関しては残念ながら資金が足りなかった。
「宿代まで使ったらいけたけど、さすがに野宿は勘弁願いたいし。まあ最悪薬草とかは直接山に入って調達してもいいか」
調合のレシピなどもユークは頭に入っている。さてどうしようか、と考えつつも足はギルドへ向かう。
「一晩眠って魔力も体力も回復したし、また仕事するか」
さすがに五日不眠はきついので、今度は三日程度か――などと考えつつ建物へ向かうと、その入り口付近に人だかりができていた。
「ん……?」
近寄ると、複数人の冒険者や傭兵が色々と会話をしていた。ユークが聞き耳を立てるとこの編成で向かおうとか、俺と組まないかとか、そういう声が聞こえてきた。
何が起きたのか、とユークは建物の中へ。ギルド内も外と同様に多数の人々が話し合っている。
ユークは受付で何が起こったのか尋ねる。それに受付の女性は、
「魔物の群れが出現し、討伐指示が出ています」
(ああなるほど)
自然発生した魔物は基本少数で行動するのだが、時折群れを成して動き回るケースがある。
「現在魔物の群れは街道に出現しており、早急な討伐が必要です」
「騎士団は?」
国の人間は動かないのかと尋ねると、
「動いていますが、群れの規模から戦士ギルドに要請が来た形です」
「わかりました……依頼、受領します」
ユークはすぐさまそう言い、詳細を確認してから建物を出た。既に他の戦士達は行動を開始している。また、町中にいる警備の兵士は魔物の群れが出現したためか馬車を止め確認などを行っている。
「情報は広まり始めた……か」
剣を見て回っている時はそんな様子はなかったため、装備を整えている間に急報が舞い込んできたのだろうとユークは推測。戦士達が相次いで町を出るべく動く中、ユークもまたそれに追随して町の外へ足を向ける。
ただ、ここで目立てばユークがここにいると宣伝してしまうことになるが――
(まあ、やりようはあるか。懸念としては俺の顔を知っている人間と遭遇することだけど……いないとも限らないが、だからといって放置はできないな)
家出したとはいえ人の役に立とうという気概は持っているため、参加しないという選択はなかった。
(ギルドには偽名で登録しているし、名前から俺がここにいることは露見されることがない……ふむ、仕事を終えて俺のことが知られるかどうか……様子を見るのもいいかな?)
それに装備も整えた――新調した剣の切れ味を試す絶好の機会でもある。
やがて町を出る。街道にはこの町へ向かう多数の馬車や旅人の姿が。中にはおそらく引き返してきた者達もいるだろう。
「街道にたむろしていると言っていたな……被害が出ないようにするためには時間との勝負か」
今回は緊急性を要するため、依頼を受け次第現地へ向かう手はずになっている。そしてユークは、街道から空へと立ちのぼる魔物の気配を明確に感じ取った。
「距離はあるはずだが、それでも感じられる……魔物の数は多いみたいだな」
周囲を見回す。様々な人が町へ逃れるため向かってきているが、そうした中で逆行する戦士達の姿が見える。中には複数人が飛翔系の魔法を使って空から現地へ向かっている姿もあり、
「飛んだ方が早いか? いやでも、なんだかんだで目立つか?」
ともあれ、最優先すべきは戦場への急行――ユークはそう思いながらどういう手段が早いかを思考し、やがて足に魔力を込めた。
飛翔系の魔法で真っ直ぐ突き進むのもいい。しかし、ユークにとって最速は、幼少の頃より森や山を駆け抜けた足を使う移動法だった。
「人は多いから少し気をつけて……だな」
刹那、ユークは地を蹴った。それによって人々の間を縫うように街道を駆け抜けていく。
周囲の人間の動きがスローに感じられるようになり、同時に感覚が鋭敏化することで街道にいる人々の動きが正確に理解できる。進路を妨害するように歩む人を見極めかわしながら、なおかつすれ違うことによって生じる風とかを生み出さないように魔法で風の流れも調整し――先に戦場へ向かう戦士や、空中を飛ぶ者達すら追い抜いて、街道を疾風のごとく進む。
そうして――ユークの目に戦場が映る。同時に剣を抜き放ち、間近に到達する前に戦闘態勢へと移行した。