幕間:領主と従者3
「それで……目標って?」
「……まず、私自身剣を握り何かを得よう、という考えはありませんでした。勇者として、騎士として責務を全うする……それが自分に望まれたことであり、シアラさんが言う滅私に近い感情かもしれません」
「繰り返すけれど、あなたがそれで納得するのなら否定するつもりはないわ」
「はい、わかっています……でも、ユーク様と出会い、シアラさんと出会い、話を聞いて……今回、一緒に町に出て見て回る内に、一つ目標ができました」
「それは?」
問い返したシアラに対し、アンジェは一拍間を置いてから答える。
「勇者に、なることです」
――発した言葉はそれだった。傍から見れば勇者の証を持つアンジェに対し首を傾げてもおかしくないが、
「……勇者の従者ではなく、あなたが勇者になりたいと」
「はい」
「勇者という存在は多岐に渡る。あなたの場合は、どういう勇者を望んでいるのかしら?」
「ユーク様や、シアラさんのような勇者に」
「……私は参考にしない方がいいと思うけれど」
アンジェは真っ直ぐシアラを見返す。それでどうやら意思は固いのだと理解したのか彼女は、
「あなたにとって、私の持っているものが輝かしく見えたということかしら」
「そうですね」
「なら私は、友人として期待を裏切らないよう、頑張らないといけないわね」
「そういうことは……」
アンジェの言葉にシアラは笑う。そして「わかってる」と一言添え、
「ええ、目標ができたのであれば、大きな進展かしら」
「そうだと良いですね……ただ、これが正しいのかはわからないのですが」
「そんなの誰だって同じよ。私だって領主として、勇者として日々研鑽を重ねているけれど、正しいのかはわからない」
シアラはそう語ると、なおも笑みを向けたまま言った。
「悩むこともまた、理想の勇者となるには必要なことよ……今あなたに助言をするなら大いに悩み、大いに試行錯誤しなさいってところかしら」
「ありがとうございます」
「……そんな風に語る私だって、理想なんてものには程遠いけれど、ね。ユークだって同じ事を思っているはずよ」
「そうやって悩み、勇者というものになっていくのですね」
「ええ、そうよ……町へ連れ出したのは正解だったかしら」
「私がこんな風に考え出したこと、それが正しいかどうかはわかりませんが、そうなるよう頑張ります」
「一歩進んだけれど、まだ固いわねえ」
と、なおも笑うシアラ。彼女の眼には様々な感情が宿り、アンジェを見据えていたが――やがて、
「……友人となった以上、一つ話しておくわ」
「何でしょう?」
「実は少し前に、ユークに話したことがある。それはディリウス王国に関わるものであり、立場上貴族の家系であるあなたには伝えるべきではないと判断したこと」
「……組織と関連がある話ですか?」
「ええ」
「私の立場上、事実を知るとまずいということでしょうか?」
「例えばの話、内容を語ってあなたが私やユークに反旗を翻すようなことにならないと思うわ。でも、今後の戦い……そこで足が止まってしまうかもしれない」
アンジェは沈黙する。その胸中ではとある可能性が浮かび上がった。
「わかったようね、組織と関わりがあるかどうかはわからないけれど……現在起こっている騒動に、どうやらディリウス王国の貴族が関わっている」
「私の親族も容疑者リストに入っているというわけですね」
「あなたにとっては不快かもしれないけれど」
「いえ、あらゆる可能性を踏まえるべきでしょう……ユーク様ならば、そう考えるに違いありません」
「そう……詳しく説明するにしても、騒動が終結した後になるかしら」
「ユーク様とシアラさんがそう判断したのであれば、聞きません」
「いいの? 悪いわね」
シアラは申し訳なさそうな表情を示した後、
「組織との騒動に首を突っ込むにつれて、おそらくあなた達には厳しい戦いが予想されるわ。私はできる限りあなた達のことを助ける気ではいるけれど、領主という立場上限界もある」
「シアラさんはこの町を守るのでしょう? であれば、それを優先してもらえればいいと思います……私やユーク様だって、この町に何かあれば悲しみますから」
「……そう、わかったわ」
風が流れる。双方のスカートがなびき、双方が無言となる。
沈黙を破ったのは、シアラから。
「さて、そろそろ戻りましょうか。明日か明後日にはこの町に騎士がやってくる。そこから、ユークも本格的に動くはずよ」
「事態が解決に向かえばいいのですが……」
「正直あまり期待はしていないけれど、今はとにかくできることを、ね」
「はい」
二人は屋敷へと歩き出す。その様子は良き友人としてのものであり、互いが自らの地位を気にすることもない。
並んで歩むその姿に、堅苦しさは皆無――それと共に、これからのことを見据え、しっかりとした眼差しを、二人は見せていた。




