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武器の新調

「ありがとうございました」


 ギルドで受付をする女性にそう言われ、ユークは手を振りながら建物を出るべく歩き出す。近くのテーブルには採取してきた薬草が置かれており――今回行った仕事の実績である。

 山奥にある稀少な薬草採取、という依頼をこなしユークは息をつく。危険な場所に自生する植物であるため、相応の報酬はあったが距離もあったので少しばかり疲労していた。


 とはいえそれは無理もない。なぜなら――


「ふむ、このくらいで疲労感が強くなるのか……検証は済んだしそろそろ休むか」


 最初に魔物調査の依頼を受けてから、ユークはギルド内で請け負える仕事を片っ端から引き受け、その全てをきっちりこなしていた。

 理由は資金稼ぎと自分の能力を知るため。具体的に言えばどこまでやれば疲労してくるのか――山にいた頃は、疲れる前に一日が終わってしまっていた。よって自分の限界を知るために多少無理をして仕事を行った。結果、


「食事と入浴の時間以外を使って五日で限界か……ま、もった方かな」


 ちなみにここまで一睡もしていない。本当に食事と体を洗う時間以外を仕事に費やした。


「よし、資金も十分集まったし、明日剣を買いに行こう」


 そう決断し、宿へ戻る。その懐には、五日働き通しで得た報酬がたっぷりと詰まっていた。






 翌日、ユークは武器屋へ赴く。目的は剣の新調であり、武器や関連の店が建ち並ぶエリアを見て回る。


「うーん……」


 キョロキョロと見回しつつユークは通りを進む――その目的は柄や鞘がボロボロの剣を見て一目でわかるらしく、通りで客引きをしている人間が「良い剣があるよ」と声を掛けてくる。しかしユークは適度にあしらいつつ、歩んでいく。

 やがて、一軒の店に目がいった。周辺に人はいない上、看板は年季が入っているのかくすんで見える。そこで外から店内を見る。こじんまりとした室内に、店主らしき男性が見えた。


 そして、外から見る限り飾られた剣を見て――ユークはその店に入った。


「いらっしゃい」


 ややしわがれた男性の声が響く。ユークは「どうも」とだけ返事をして小さな店内を見回り飾られている剣を見据えた。


「傭兵、といったところか?」


 店員の男性が声を掛けてくる。ユークが首を向けると初老の男性が一人。他に従業員はいないようなので個人で店をやっているのだろうと考えつつ、


「はい、剣を新調しようと思いまして」


 腰から剣を引き抜いて見せてみる。そのボロボロ具合を見て男性はやや呆れたように、


「今までよくそんな武器で仕事をしていたな」

「色々ありまして。で、そろそろ限界だなと思って」

「そんだけ見てくれが悪かったら無理もないな。兄ちゃん、武器ってのは単に道具という意味だけじゃなく、お前さんの価値まで決めちまう場合があるんだ。気をつけなよ」

「価値?」

「例えばの話、剣がボロボロで衣服も汚れている傭兵と、小綺麗でちゃんと装備を整えている傭兵がいたら、どっちに仕事を頼む?」

「なるほど」


 ユークはたとえ話に頷き、


「であるなら、すぐにでも替えた方がよさそうですね」

「その言い方だと、よさそうな剣がないか見て回っている最中か?」

「ええ、ここが一軒目ですけど」


 ユークは男性を射抜く。視線を合わせられた相手はちょっと驚いた様子を見せつつ、


「……どんな剣がお好みだ?」

「可能であれば今使っている剣とサイズや長さが同じであることが好ましいんですけど」

「見せてみな」


 ユークは黙って剣を差し出す。受け取った店主は少しだけ剣を抜いて刃を確かめる。すると、


「なんだこりゃ? 見てくれの割にずいぶんと刃は綺麗だな」


(魔力を常にまとわせて使っているからなあ)


 剣と魔法を学び始めた段階で、ユークはすぐに武器に魔力をまとわせる技法を体得した。幼少の頃よりそれが身についていたので、魔力を付与する剣の刀身部分は使い込んでいるにも関わらず綺麗に見える。


 とはいえさすがに劣化はしており、新品のようには見えないが――


「仕掛けはなさそうだな……あんた、魔法か何かで強化するタイプか?」

「はい、そうです。わかるんですか?」

「刃が綺麗ってことはそういうことだろ。とはいえ外見のボロボロ加減を考えると、ずいぶん大切に使ってきたな。思い入れとかあるんじゃないか?」

「苦楽をともにしてきた剣ではありますが、これから色々仕事をこなしていくのであれば、やっぱり別れないといけないですね」

「そうか」


 剣を鞘に収めた男性は、ユークと目を合わせる。


「この剣、刀身の品質は良いし使用されている金属も上等なものだろう……これを下取りさせてもらうなら、相応に値段は安くするが、どうだ?」

「是非お願いします」


 笑みを浮かべ答えるユーク――その目には男性の顔以外に彼から漂う魔力を捉えていた。

 その魔力はユークからすれば中立的かつ、客に対し真摯に向き合おうという態度があった。店に入る前の時点で店主がそういう気配を漂わせ、なおかつよさそうな剣があったからこそ、ユークはこの店を選んだ。


(客引きの人とか好意的だけど、高い買い物をさせようって気配満々だったからなあ……)


 こうした技法もまた鍛錬の成果。それが功を奏し店選びに成功したようだった。


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