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史上最強勇者、家出する  作者: 陽山純樹
第二章

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68/200

復讐心

「シアラが勇者であることに、組織は目を付けた。そして君の両親を毒殺し、それが政争によるものだと誰かが吹き込み……共に恨みを晴らそうと、組織の人間が勧誘する。実際は組織の人間による仕業なのに、ということか」


 ユークの発言にシアラは目を丸くした。


「驚いた……これから詳細を語るつもりだったのに、わかったの?」

「勇者オルトの名前が君の口から出たということは、そういうことだろ。ご両親の葬儀後、そういう風に言ってきた人間がいたんだな?」


 問い掛けにシアラは小さく頷いた。


「実際はもっと婉曲的だったけどね……私も最初、流行病だと思っていた。それほど毒殺だとはわからないものだった」

「けど君に、何か変だと吹聴した人間がいたと」

「そうね。社交界に顔を出していたのも、色々と調べるため……そして私は毒殺されたのだと結論を得た」

「組織の人間は来たのか?」

「いえ、明確に勧誘はしてこなかった。領主という立ち位置だから、大っぴらに話をするのは避けたのでしょう。あくまで私が調べて真実が発覚するように……私を誘導していたのだとしたら、ずいぶん手の込んだ策だけど」

「……それで、犯人は見つかったのか?」


 ユークの問い掛けに対しシアラは少し間を置き、


「毒殺をした犯人……その断定はできなかったけれど、協力者にディリウス王国の貴族が関係しているという情報が手に入った」

「……なるほど、だからアンジェには話せないわけか」

「最悪、彼女の親族が関わっている可能性もあるからね」

「で、その貴族を見つけ出してくれと?」

「いえ、国と関わりがあるわけじゃないあなたにその役目は無理でしょう? この話をしたのは、この騒動には思った以上に複雑な因果が存在しているということを知ってもらいたくて……そもそも、毒殺の手引きをしたディリウス王国の貴族だって、組織の傀儡でしょうし」

「そうだな……」

「それと復讐心はないのかと疑問を抱いたかも知れないけれど、答えを言うわ。もちろん、恨みがないと言えば嘘になる。でも、それ以上に私はこの町にいる人々を守りたい」


 強い口調で、シアラは話す。


「あなたがいることで組織に目を付けられる可能性があるのは確かだけど、そもそもあなた達がいなくても町が襲われる可能性はあった。私は組織の思惑から外れた人間。いつ何時、干渉されてもおかしくないの」

「なるほど、な……大森林の魔物を討伐していたのは、両親のことと関係があると思ったためか?」

「いえ、さすがに因果関係があるかも、とは考えなかったわ。でも、もしかしたら復讐などしない私に業を煮やした組織が、報復のために魔物を配置したという可能性も否定できないわね」

「あれ自体が報復か……確かに、あの魔物の強さを考えれば、勇者であるシアラも危なかったかもしれないな」


 ユークは彼女の口から得られた情報を頭の中で咀嚼する――純白の魔物の存在を考慮に入れれば、組織側は確実に干渉していた可能性は高い。


「ただ、疑問がある……なぜそうまでしてシアラを?」

「年齢や立場を含めて与しやすいと考えたのでしょう……私が言えるのは、組織の人間が様々な方法で勇者を引き入れるべく活動しているのだろう、ということ。そうした中、勇者である私がターゲットになった」

「……シアラにしてみれば、組織の討滅はご両親の恨みを晴らす意味合いもあるのか」

「さっきも言ったけれど、私は町のことを優先するわ。もちろん、仕事はちゃんとする。可能な限り情報も集めるし、あなたの活動についてもバックアップはするつもり」

「わかった……情報ありがとう。今後どう動くかについての指標にさせてもらうよ」

「ええ」


 そうしてシアラは笑みを浮かべる――陰のない、穏やかな笑み。


「仕事については近いうちに伝えることにするわ……あなたの相談事はどうする?」

「改めての機会にするよ……もし町に魔物が来たとしたら、大規模な戦いに発展する可能性もある。対策は早急に進めた方がいいと思う」

「ええ、わかってる……あなたがここに来たから魔物に攻撃された、なんて思わないから安心して」

「君の見立てはどうなんだ? 来ると思うか?」

「組織的に私の存在は警戒に値するかもしれないけど、国をまたいで活動しているのでしょう? もう関心がない、となっていてもおかしくないし、微妙なところね」

「警戒する必要はあるけどな……シアラ、ディリウス王国の貴族……傀儡とはいえ手を下した人間なんだろう? もしその人物が見つかったらどうする?」

「組織のことを知らなかったら何かアクションを起こしていたかもしれないけど、今は違うわ。とにかく町を……それこそ、お父様達の望みだろうから」

「わかった……なら、俺の好きにさせてもらうよ」

「ええ。やらかした汚点を利用して、徹底的に社会的に失墜させてあげてね」


 微笑みながら語る彼女の言葉にユークは苦笑しつつ、「わかった」と小さく同意した。


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