洞窟の魔物
目標となる洞窟まではユーク達の能力で数時間――本来なら半日くらいは必要な距離なのだが、移動魔法により大幅に時間が短縮された。
「ここだな」
人気の無い森の中を進み、やがて辿り着いたのはポッカリと開いた洞窟。漆黒の暗闇が奥には広がっているが、その中からずいぶんと、魔物の気配がする。
「……気配を探る限り、動物や昆虫の類いは皆無だな。魔物が住処として利用しているため、生物は逃げているんだろう」
「魔物……しかもその数は多いですね」
「アンジェはどの程度いると推測する?」
問われ、彼女は少し間を置いて、
「……私が感知した限りだと、二十体近くですね」
「俺もほぼ同じ見解だ」
「魔物を引き寄せるという情報でしたが、もしかして青い魔物は魔物を生み出しているのでは?」
「その可能性は十分ある……そして、もしその特性だとしたら戦士ギルドの賞金首になってしまったのも頷ける」
「どういうことですか?」
ユークは聞き返したアンジェに対し説明を加える。
「俺達が遭遇した組織と関係している魔物……漆黒と純白。このうち漆黒は俺達が発見するまで世間の目に触れられることはなかった。これは大地の魔力を利用して作成するという特性から、人の目が届かなかったという要因だろう」
「はい、それは理解できます」
「次に純白。あの魔物は魔物を喰らって強くなった……これはたぶん、魔物という魔力の塊を取り込むことで作成するという意図があると推測できる」
「土地の魔力ではなく、魔物由来というわけですね」
「こうした作成方法の違いは何か……保有していた能力を踏まえると、作成手段によって魔物の能力が変化するのか。それとも、取り込んだ魔力の質によって見た目は能力が変化するのか……」
「現時点では不明ですね」
アンジェの言葉にユークは首肯し、
「で、純白の魔物は人が入り込む大森林にいたから目撃情報はおそらくあったと思う。でも、基本的に殺気のない人間から距離を置くという特性であったため、目を付けられることはなかった」
「しかし今回――青の魔物は違う」
「ああ。魔物を生み出しているか、魔物を引き寄せているのかは現時点でわからないが、確実に言えるのは青の魔物の周囲には多数の魔物がいるということ」
「つまり魔物が周辺にいるということから、戦士ギルドに見つかってしまい賞金首になったと」
「そういうこと。そして魔物作成か、誘引か……コレ次第で俺達の動きは変わってくる」
そう述べたユークの言葉にアンジェは頷き、
「では早速洞窟内へ」
ユーク達は歩き出す。洞窟へ足を踏み入れた瞬間、全身を凍らせるような鋭い魔力を感じ取ることができた。
「魔物は俺達に気付いたな」
「気配感知などが得意なのでしょうか?」
「使役することはできるみたいだから、気配感知が得意な魔物を生み入口付近を監視しているのかもしれない……どういう形であれ、俺達を敵と認定したのは間違いないな」
――ユークの言葉が真実であるように、洞窟奥から多数のうなり声が聞こえてくる。
「まずは青の魔物以外の敵から始末だな」
「感じられる気配を考えれば、決して難しくはないでしょう……ただ、これは……」
アンジェが言葉を濁す。その理由は、感じ取れた二十体ほどの魔物――その全てが入口へ押し寄せてきているためだ。洞窟内でいる場所に違いがあるため一斉に魔物達が入口へ到達するようなことはないようだが――
やってくる魔物は洞窟内において、青の魔物を除く全ての個体。当然ながら、気配を察知したからこんな一斉に来るとは考えにくい。間違いなく、青の魔物が操作している。
「誘引というより、作成し支配下に置いているからこその動きのようにも感じられるな」
ユークがそう呟いた時、いよいよ魔物が目の前に現れる。洞窟奥から恐ろしい速度でやって来る魔物に対し――ユーク達は黙って剣を抜くことで応じた。
来る、とユークが個々との仲で呟くと同時、肉眼で魔物を捉える。四本足で猪を象ったかのような姿を持つ個体。その巨体が迫る様は凶悪の一言であったが――ユーク達は涼しい顔で魔力を高めた。
その直後、新たに手に入れた武器の特性を、ユークはつぶさに理解する――魔力をそれなりに叩き込んだが、刀身はそれをあっさりと吸収したばかりではなく、効率的に剣そのものが強化される。
(これが、俺達の能力を考察して作られた専用武器の力か)
「手に馴染みますね」
ユークが心の内で思ったことと似たようなことを言うアンジェ。剣に魔力をが収束していく様は極めて自然であり、生まれた時からこの剣を持っていたかのような所作だった。
「これなら、どれだけ来ても対応できそうです」
発言直後、後続の魔物がユーク達の目の前に現れる。それらが問答無用で体当たりを仕掛けてきた。




