新たな敵
結局、ユークとしては想定していた成果を得ることはできず、最初のデートは終了した。
「アンジェとしては不快感や嫌悪感はなかったみたいだし……今後も提案してみるか」
宿へ戻り、ユークはそう呟く。時刻は夕方。これから夕食でもとろうかという段階に至り、その前に一度部屋に戻っていつもの旅装姿に着替えながらの発言だった。
「実際、組織の人間に取り入って情報をとるという場面も可能性はある……その時に今のアンジェだと怪しまれるだろうし、今後も旅を続け組織と戦っていくのなら、アンジェには慣れてもらわないといけないよな」
――今回のデートは、ある種アンジェへ告げた「組織の人間と関わるかもしれないから」という理由は方便に近かったのだが、そうした可能性があるのもまた事実。
「ま、諜報活動は本来国の人に頼むところなんだけど……自分達でも行動に移せる用意はしておいた方がいい」
そう呟きながら、ユークはアンジェの姿を頭に浮かべる。
「……それと、アンジェは実直かつ生真面目だから搦め手とかに弱そうなんだよな……俺の判断を仰がず何かをするという可能性はないと思うけど……」
ひたすら技術を磨き続けた結果、他のことがおろそかになっている――というより、ユークの目には意図的にそうしているようにも見える。
(これはエインディット家の方針なのか? それとも、貴族や騎士の家系に生まれた勇者は、そういう教育を施すのか?)
どちらにせよ、今のアンジェは間違いなく欲というものがなかった。ひいては自意識というものが希薄であるようにも思える。
(勇者であることから自意識過剰にまで至ったらそれはそれでダメだけど……逆にそういうものがなさ過ぎるのも問題なんだな……)
バランスが重要、ということだなとユークは結論を出した後、再び思考を始める。
(とはいっても、彼女にとって俺がやろうとしていることがいいことなのかはわからない。変化を望んでいないかもしれないし)
けれど――考え続けると泥沼にはまりそうな予感がして、ユークは思考を打ち切った。
「……課題は山積みだな」
ユークはそう呟いた後、食事をするため部屋を出た。
――その日以降、特段イベントなどはなく淡々と日数が経過し、武器が完成しユーク達は研究所を訪れた。
「これが……」
手渡された武器を眺め、ユークは言う。
見た目はシンプルな装飾の剣なのだが、発する魔力が売られている物とは大きく違うことが一目でわかる。
「多少無茶な扱い方をしても問題ないよう、調整はしています」
ルメスは言う。彼はユーク達を一瞥した後、
「武器の性能確認についてはどうしますか?」
「適当な仕事を引き受けて試すことにするよ」
ユークが応じる。それでルメスは「わかりました」と引き下がり、
「お二方のご武運を祈っています」
そしてユーク達は研究所を離れた。この町でやることはこれで終わり。
「ユーク様、早速シアラ様の所へ向かいますか?」
アンジェが問い掛ける。それにユークは、
「いや、少し寄り道をする……武器の性能はちゃんと見定めておかないと」
「先ほど言っていたとおり、何かしら仕事を?」
「ああ。といっても魔物討伐依頼とかじゃなくて、賞金首相手でいいかな」
「わかりました」
そしてユークは戦士ギルドを訪れる。賞金首に関する情報を漁っていると、興味深いものを見つけた。
「これは……」
それは魔物に関するもの。目撃例はあるが、人間を見ると一目散に逃げるらしい。
ただ、その魔物の周囲には複数の魔物が発見されており、何かしらの手段で魔物を引き寄せているのだろうと推察されている。人的被害はないらしいが、特性的に放置すれば面倒ということで、賞金首として設定されたらしい。
これだけなら特徴的な魔物なんだな、くらいで終わるのだが――問題は、その詳細情報。人型であり、かつ全身を青色に染めている、普通の魔物と比べ異質な存在であるらしい。
「アンジェ、これを見てくれ」
ユークは賞金首の紙を彼女へ渡す。
「人型かつ、人を見れば一目散に逃げる……魔物は警戒心が強いからこういった反応を示す魔物もいるけれど、ここに記載された方法だと人間の形をしている……」
「純白、漆黒の魔物に近しい存在だということですか?」
「確証はないけど、人を捕食し魔力を取り込む魔物の特性を考えると、それをしないというのはなんだか奇妙に思えるな」
場所は町から東。ユーク達にとってログエン王国へ向かうための通り道である。
「しかも場所は洞窟内だ。山、森ときて次は……なんて可能性は十分ある」
「では、この魔物を討伐すると」
「ああ」
それに――情報を踏まえ、ユークは心の内で考える。
(記述されている情報から考えると、この魔物は自身の力で魔物を生みだしているのかもしれない……)
そんな推察をしつつ、ユーク達は戦士ギルドを出た。




