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史上最強勇者、家出する  作者: 陽山純樹
第一章

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難解な問題

 ユークとしては色々理由を付けてアンジェを連れ出したわけで、これはデートであるという認識を持って臨んでいるが、当然アンジェとしてはそんなこと僅かも考えていない。並び歩き雑貨店に入ってみたのだが、彼女の反応はひどく淡泊なものだった。


「こういう物とかに興味はある?」


 ユークはアクセサリを指差して尋ねてみるのだが、アンジェの返答は、


「いえ、特に。それに、旅に支障が出るでしょう」


 けんもほろろなコメントであり、ユークとしてはどうしたものかと考える。


(……ここは、少しばかり強引に進めた方がいいか)


「アンジェ、興味がないというのは理解できるけど、これから仕事をしていくからには、ずっと関心がない、というのは難しいぞ」

「……どういうことですか?」


 首を傾げるアンジェ。組織を追う、魔物を倒すという行為に対し何の意味があるのかと考えている様子。


「勇者オルトとの戦いにより、敵は魔物ではなく人間ということになった」

「はい、それはわかります」

「この場合、組織の人間と接触する可能性も浮上した……俺達はまだ公に顔を知られている人間じゃない。場合によっては、組織の人間と顔を合わせ情報をとる、という選択肢もあり得る」

「それはわかりますが……」

「例えば単なる町の人間、あるいは騎士や冒険者……そういう身分を告げて接触を図るとしよう。この場合、町の人間であることを装うのであれば、それらしい振る舞いをすべきだろう」

「はい、それも理解できます」

「だとするなら、例えば装飾品なんかに興味ありませんとか言われたら、なんだこいつと不審がられる可能性はないか?」


 問われ、アンジェは押し黙る。


「もちろん、宝石などに興味の無い女性だっているはずだ。でも、組織の人間から情報を上手く得るには、相手の話に合わせる必要だって出てくる……そうなった時、ただ知識を得ているだけと実際に興味があって話せるのでは大きな違いが出てくる」

「興味の対象であれば自然と話ができる、というわけですか」

「まあそんなところ」

「任務のためと思えば、まあ……」


(本当に興味がないんだな)


 そうユークは思いつつも、これこそ勇者の教育なのだと改めて思う。


(俺は修行場を抜け出して町に出ていたから、普通の人が持っているような感性も理解できる。でもアンジェは違う……勇者になるべく、あるいは立派な騎士になるべく教育を受け、興味の対象から多くのものを外されたら、こういうことになるわけだ)


 それに反発する勇者だっている。その結果が勇者オルトのような存在であるのは明白だ。


(でも、アンジェは教育に従った……彼女は受け入れた。俺も自分の境遇を同じように受け入れたけど、彼女の場合は外の世界を知る機会がなかったからこそ、今の感性がある)


 これを無理矢理変えるつもりはユークにない。ただ、色々と知って、そこから先どうするかについては、彼女の判断に委ねるべきだろうとは考えている。


「はい、少しでも興味を持とうと頑張ってみます」


 なんだか気合いを入れ直すアンジェ。ユークとしてはこれでいいのかと思いつつも、興味皆無な視線よりはまだマシかと考え、


「それじゃあ、他にも店を回ってみようか」






 ユークとしては色々とアンジェを連れ回し、時に露店で買い食いするなどそれこそデートのような振る舞いをしたのだが――結果は芳しくなかった。

 食事についても興味の対象から大きく外れていた。ここでユークはこれまでの旅路でアンジェが料理に対し「美味しい」と感想を述べたことが一度もないのに改めて気付いた。それは舌が肥えているという可能性もあったが、以前聞いたことによれば庶民寄りの食生活だったようなので、そういうわけでもなさそうな雰囲気。


 よって甘味処に立ち寄って色々食べてみたのだが――ユークにとっても甘くて美味しいと感じる、それなりの値段がするフルーツを食してアンジェは、


「普段食べるものと比べて甘いですね」


 そういう感想しか述べなかった。これは本当に厄介だ、とユークは胸中で思う。


「感想、それだけ?」

「はい」

「……普段、食事をする際にどういう感想を持つ?」

「え? いえ、食事については旅をする以上特に気を遣うようにと言われ、野菜や肉、穀物をバランスよく食べよと指示されていますし、それを実践していますが……」


(確かに旅をするのに支障がない、みたいなメニューだったな……)


 アクセサリだけでなく、食事においてもそれでは、今回町を見て回るだけでは解決しなさそうだ、とユークは確信する。


(とにかく、少しずつ進めるしかないか……)


 ユークとしても、アンジェに語った情報収集の手段は、候補にある。つまり、彼女の感性についてはもしかすると作戦に支障が出る危険性もある。


(ただ、俺自身別に考えを変えろ! と無理矢理要求しているわけでもない……命令されて変えるというのもおかしな話だし、やりたくないし……)


 そこでユークは思った――これは勇者にまつわる組織以上に、難解な問題であると――


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