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主と従者

 研究所を訪れた日は宿に入って以降、ユーク達は自由行動ということになった。よってユークは町を見て回る。この町はこれまで訪れた町と比較すれば小さいが、色々と見て回れるものは存在しており、これならとユークは一つ決断する。

 やがて夕刻となってユークとアンジェは宿内にある食堂で食事をとることに。そこで、


「アンジェ、明日はどうするんだ?」

「今日、周辺地図やログエン王国内の情報などを収集しました……明日もそれを続けようかと思いますが」

「一日だけ、俺に時間をくれないか?」


 唐突な申し出。それにアンジェは、


「何かあるのですか?」

「いや、休息をとるという意味合いを兼ねて、町を見て回らないか、と思ったんだけど」

「町を……?」


 それに果たして意味があるのか、という風に考えている様子。確かに旅を続ける以上、この町のことを知る必要というのは皆無に近い。


(そもそも価値があるのかどうか、という判断基準も微妙なんだけど)


「親睦を深める意味合いとか」

「親睦……ですか」

「単純に連携するなら、二人で鍛錬をすればいい……武器を手にしたら検証を兼ねて一緒に剣を振ろうかと考えてもいるんだけど」

「それは私も賛成ですが……」

「うん、それに加えて互いのことをもっとよく知った方がいいかなと思って」


 提案にアンジェは戸惑った様子だった。ただ、一定の理解は得た様子で、


「なるほど、わかりました」


(……アンジェは自分のことを推し量ろうとしている、とか思っているんだろうな)


 ユークはそういう推測をしつつも、あえて言及はしなかった。


「それじゃあ明日の朝、支度を済ませたら宿の前で集合だ」

「はい」

「ただ、武器とか荷物とかは部屋に置いてくるように」

「町を見て回るわけですから当然ですね」


(とはいえ、旅装姿では味気ないよな)


 そんな風に思いつつユークは「明日よろしく」とアンジェへ告げたのだった。






 翌日、ユークとアンジェは朝の時点で行動を開始する。町を見て回る、という目的以外アンジェへ何も告げていないユークだが、ある店へ一直線に進み、


「まずはここ」

「服屋ですか」


 店の前には着飾った衣装が並んでおり、なおかつ大通りには服を販売する店がいくつも存在している。


「研究所目的でここを訪れたけど、どうもここは繊維業によって発展した町みたいで」

「なるほど、だからたくさんの衣装とお店があるわけですね」

「うん、それじゃあまずはここで何か買おう」

「……旅の邪魔になるのでは?」

「服が? 確かにかさばるけど、こういう衣装も用意しておいた方がいいと思うし」

「何故ですか?」


 首を傾げるアンジェに対し、ユークは説明を加える。


「俺達の格好はいかにも旅をしている傭兵です、といった感じだ。でも、仕事の内容次第で町の人間に溶け込む必要だって出てくるかもしれない」

「そういう場合に備えて用意しておく、と」

「そうだ」


(まあ、これは建前なんだけどね)


 実際は旅装で町を見て回るのはなんだか味気ないため。ただその理由を語ってもアンジェは「そんな必要あるでしょうか?」と言うのは予想できたので、とりあえず適当な理由を述べた。

 そこからユークとアンジェは店に入って服を見て回る。最終的にユークは袖などに刺繍が施された白い服。アンジェは淡い水色のロングスカートを選び、店内で着替えた。そして着ていた衣服を一度宿に置いてきて、改めて町を見て回ることに。


「なんだか落ち着かないですね……」


 スカートに対しアンジェは感想を述べる。そこでユークは、


「こういう服は着たことない……わけはないか」

「ドレスなどを着用したことはありますけど、なんというか慣れないんですよね……」


 実際、風によって少しはためくスカートに悪戦苦闘している。勇者として、騎士として教育を受けていた彼女にとって、衣服で着飾るという行為自体、慣れ親しんだものではない。

 ドレスだってあくまで社交界などに出るための物であり、自ら求めるものではない――本当に勇者となるためだけに教育されてきたのだと理解しつつ、ユークは口を開いた。


「作戦上、違和感がないようにしないといけないし、購入した以上は慣れてもらわないと」

「わかりました」


 なんだか気合いを入れ始めるアンジェ。ユークは彼女の様子に苦笑しつつ、


「それじゃあ歩こうか。あ、途中で店とかよりたいんだけど、いい?」

「今日のことはユーク様の発案ですし、ユーク様がしたいようになされば」

「わかった……よし、まずは大通りを真っ直ぐ進む」


 発言と共にユークは歩き出す。それにアンジェは黙ってついてくる。主に対しどこか一歩引いた状態の彼女であったため、


「アンジェ、今日は隣を歩いて」

「え……」

「衣服からして、主と従者というわけじゃない。並んで歩くのが正解だよ」

「……わかりました」


 少々躊躇いつつも彼女は承諾し、ユークの隣へ――そうして、デートが始まった。


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