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史上最強勇者、家出する  作者: 陽山純樹
第一章

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不断の努力

 アンジェが検証用の剣へ魔力を一気に注ぐ――途端、刀身全体が発光し、なおかつユークは熱を感じ取った。

 魔力は一瞬で刀身を駆け抜けると、大気へ飛び出してすぐに霧散する――魔力はきちんと形を成していなければすぐに消え去る。武器などに付与すればある程度持続するが、時間が経つごとにその性質は弱まっていく。


「今ので全力ですか?」


 ルメスがアンジェへ問う。それに彼女は小さく頷くと、


「さらに力を入れてみてください。また何度か魔力を注いでもらい、データを複数とりたい」

「わかりました」


 アンジェは応じ、そこから幾度も刀身に魔力を注いだ。刀身に光が生まれ魔力が駆け抜け――やがてルメスが「剣を渡してください」との指示に、アンジェは言葉通り渡した。


「ええ、これなら十分でしょう」


 ルメスはそうコメントすると、次に漏らしたのは感嘆の声。


「しかし、その魔力量は目を見張るものがありますね」

「そうですか?」

「比較対象がないのでアンジェ様にはわかりにくいかもしれませんが、本来その剣は発光するにしてももっと光量は少なく、熱を感じるほどに魔力が生じるわけではありません……少なくともこの施設を訪れたことのある勇者の中でも抜きん出ているかと」

「はあ」


 褒められているが、当人はさほど感慨もない様子であり、視線はユークへ向けられる。

 その意図は「自分でこれなら、果たしてユーク様はどうなるのだろう」ということだ。


 次にユークが剣に魔力を込める。一瞬で剣が輝き、熱が生じ――と、アンジェと同じような流れをとる。


「ほう……」


 そしてルメスは声をこぼした。感じられる魔力は間違いなくアンジェよりも上。それを彼も認識したらしい。


「それで全力ですか?」

「いや、まだいけるんだけど……」


 ――先ほど収束させた魔力量は、勇者オルトと魔物を一蹴した時に叩き込んだ量とほぼ同じ。ただそれはユークにとって本当の全力ではない。


(魔力を注いだ体感からすると、全力でやっても大丈夫そうかな?)


「もう一度いきます」


 ユークは宣言してから、改めて腕に力を込める。そして一気に魔力を――刀身へ注いだ。

 その瞬間だった。握りしめる柄から伝わってくる感触にユークはまずいと思った。


 刹那、剣が輝いたと同時にパァン! と、破裂音が生じた。それはユークが手にしていた検証用の剣が破壊された音。


「なっ……!?」


 これにはルメスも驚いた。対するアンジェはただじっとユークへ視線を向けていたのだが、その態度はむしろ「そうなってもおかしくない」という心境が見て取れた。


「なんと……剣が壊れてしまうとは」

「弁償とかになる?」

「いえ、検証用の道具が壊れてしまうことはよくありますから……ただ、魔力を通過して検査するそれが壊れたのは、初めてですね」


 驚きつつも、ルメスは先ほど起こった現象について考察する。


「例えば底の抜けた水瓶であっても一度に通せる水の量は器である以上限界があります。どうやらユーク様は検証用の剣が持っている器を破壊するほど、瞬間的に魔力を放出できる、ということでしょう」

「えっと、つまり……?」

「もっと注げる魔力量の大きい物を用意してきます。今まで作ってはみたものの必要性がなかった一品ではありますが、どうやら日の目を見ることができたみたいですね」


 どこか嬉しそうに――そんな態度にユークは内心ちょっとばかり呆れつつ、


「なら、それを用意してもらえると助かります――」






 その後、持ってきた新たな剣でユークの魔力量については調査できた。ルメスは普段データなどをとりまとめているらしいのだが、ユークの魔力量は今までに見たことがないほどの量らしい。


「勇者の証を持っているだけでは説明がつきませんね……しかし、ただ才能に恵まれていたというわけでもない。不断の努力が要因でしょうか」


 そう述べた後、ルメスはユーク達へ笑みを作りつつ、


「では情報を基に武具を作成します。宿についても手配致しますので、完成までお待ちください」

「手配?」


 ユークが聞き返すとルメスは、


「ええ、こちらの一存でお待ち頂くので、宿代についてはこちらでお支払い致します」

「わかった」


 旅費が浮くなあ、と胸中で呟きつつユークはアンジェと共に研究所を後にした。


「少しの間、お休みですね」


 アンジェが言う。ユークは頷きつつ――あることを思い至った。


「数日、ということだから三日か四日か、そのくらいは掛かるだろう。武器を手に入れて以降は色々と動き続けるだろうから、今のうちに英気を養っておくのもいい」

「そうですね」

「アンジェは何かやりたいこととかある?」

「いえ、特には……ただ、今後のことを考えると勉強しておくべき事柄は思い浮かびます。図書館があるようなので、少し調べ物をしようかと」

「……そうか」


 やはりどこまでの従者として役割を全うするらしい。彼女の発言を受けてユークは何をすべきか決断し、その日は宿に入ることとなった。


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