魔力の検証
案内をする男はルメスと名乗った。彼は施設内を紹介し――ユークはここがどういう場所なのかを知った。
「研究所、というのは確かに正解だな」
ユークの言葉にルメスは笑みを浮かべ、
「といっても、内容そのものは非常に地味ですけれど、ね」
――この研究所では、鉱物、植物など様々なものに秘められた魔力の性質を研究し、データ化していた。それと並行し、魔法開発や武具の開発などを行っている。
「勇者の武具に関する研究もやっています。そうした成果から、この研究所は勇者の皆様が使用する武器の製造も行っている」
「元々、素材の研究をするのがメインだった?」
「ええ、そうです。その結果、武具も作成しているといったところです」
と、そこまで言うとルメスはユークへ目を向けた。
「とはいえ、です。事のあらましを私はある程度把握している以上、ユーク様が懸念するであろうことを理解しています……勇者の武具は、非常に強力であるが故に適合するかどうかを慎重に見極めなければなりません。ですがそれは、自分の能力を他者に公開することに繋がる」
「……ここへ来る前の段階でそうなんだろうなという考えはあったけど」
「武具を手にするなら仕方がない、といった風でしょうか?」
ルメスの問い掛けにユークは首肯。すると、
「その懸念については、払拭することができます」
「というと?」
「そもそもの話になりますが、現段階でユーク様、アンジェ様のお二方が適した勇者の武具を得る、というのは難しいかと思います」
そう語るルメスに対し、ユークは何が言いたいのかを理解する。
「俺達はまだ十五……魔力の成長は二十歳を過ぎても続くため、現段階で武器を得ても魔力が変わって後々使い物にならなくなるかもしれないと」
「はい。しかもユーク様達の年齢では急速に魔力が成長するケースもあり、現在の魔力に基づいて作られた武器が、ある日突然使えなくなるという可能性も生じます」
(なるほど……思った以上に自分達が理想の武器を手に入れるには、障害があるということか。ここは書物で読んでもわからなかった部分だな)
ユークは納得した心境を抱きつつ、ルメスの話を聞き続ける。
「よって、今はお二方の力……それが確固たるものになるまで、有用な武具を提供するという形にしましょう」
「具体的には?」
「変化する特性に合わせ武具がその能力を変えるという性質の物を」
「……できるのか? そんなことが?」
「勇者の武具を作成する上で編み出した手法、といったところですか。剣は使用者の特性を学習し、また同時にその質を記録することで剣そのものが少しずつ変化する。最終的に剣に秘められたデータを用いて勇者の武具を作成する、というわけです」
「凄い技術だな」
ユークは感心すると共に、そうした武器がベストであろうと理解する。
「ただし、無論のことお二方の戦いに耐えうるだけの武器が必要です……可能な限り注げる魔力量を引き上げた物を用意しますが、まずは検証からですね」
「検証とは?」
「純粋に魔力をどこまで注げるかというのを確認します。量的に耐えられれば、武具が壊れることはないでしょう」
「わかった……なら、お願いするよ」
ルメスの言葉にユークは同意した。
研究所の案内を終えた後、ユークとアンジェは武器を作成するための検証に入る。施設の奥にある訓練場のような広い空間で、ルメスは両者に一本の剣をそれぞれに渡した。
「これは魔力が柄から剣先へ抜ける特性を持った調査用の剣です。水瓶に穴が空いていたらどれだけ注いでも意味がない……そういう特性の剣であり、通過した魔力量を調べ、適した武具を作成します」
そう述べた後、ルメスはやや申し訳なさそうに、
「魔力の質について検証は必要ありませんが、さすがに魔力量については調べなければ武器は作れませんからね」
「そこまで気を遣わなくてもいいですよ」
と、ユークは肩をすくめながら応じた。
「情報を余すところなく敵に渡ってしまったら対策の一つも立てられるでしょうけど、このくらいだったらやりようはある」
「わかりました……では、剣に全力で魔力を注いでください。その量を確認し、武器を作らせて頂きます」
「作成期間は?」
「数日あれば……とはいえ、その量次第では特殊な素材が必要である可能性もあるため、場合によってはもう少し時間が掛かるかもしれません」
「わかった。あと確認だけどお代とかは?」
「もちろんいりませんよ。ここは公的な機関であり、国から費用が支払われる形ですね」
(ということは実質税金だな)
と、ユークは思いつつ国のために働く必要があるな、と改めて思う。
(そもそも俺に対する教育だってそうだしな……ま、勇者としての役割は捨てるわけじゃない。お代分、働くということで納得してもらおう)
「では、私から」
ユークが考える間にアンジェが言う。ルメスは「お願いします」と告げ、検証が始まった。




