幕間:興味深い報告
「――以上が、今回の報告となります」
ディリウス王国の王都、そこにある王城の会議室でシャンナが報告を終えた。部屋の中央にある円卓を囲む重臣と国王。彼らに対しシャンナはユーク達と遭遇した時のことを余すところなく伝え終わった。
「ログエン王国の勇者であるミューレン家の当主と今後連携して動くことになるかと思いますが……」
「うむ、まずは武器を得てから向かうのだろうな……思うところもある者もいるだろうが、現状を考えると勇者ユークが安全に調査をし続けるための拠点は必要だ。それをディリウス王国内で見つけることが難しい現状を踏まえれば、仕方がないだろうな」
――国王の声はどこか、悔しさを滲ませるもの。勇者ユークの戦果に対し、満足に支援ができていないという不甲斐なさもあった。
「シャンナとしてはどうだ?」
「ミューレン家が勇者オルトが関与していた組織と繋がりがある……その可能性はほぼないでしょう。万が一組織の構成員だったとしても……その場合、他ならぬユーク殿が気付くかと」
「そうだな」
「そして、直接会ってみてわかりましたが、彼はおそらく二手、三手先のことを考え、私の存在を含め全てを警戒し、あらゆる可能性を探っていました。あの様子であれば、例え悪意が迫ろうともそれをすぐさま察知して対処できる……史上最強という称号は伊達ではありませんね」
おお、とどこからか小さな声が漏れた。現役勇者における格付けの中でシャンナは頂点に立つ存在。その彼女がそこまで言うのであれば、勇者ユークは――
「ふむ、ちなみに勇者ユークから報告書が来ているのだが」
と、国王は書状をシャンナへと見せる。
「シャンナから報告を受けていると思いますが、という書き出しから始まっていたぞ」
「私がきちんと報告していなければ、私自身が怪しい存在ということになりますね」
「これこそ二手、三手先を読んでいるという証明だな……抜かりがないというのはまさにこのこと。むしろ彼は本当に十五の少年なのか?」
「見た目はまさしくそうでした。しかし、垣間見せるその雰囲気は歴戦に勇者にも決して劣らない」
シャンナはそう語った後、国王へ続ける。
「勇者ユークについては大丈夫でしょう……そして陛下、今後の調査についてですが」
「うむ、現役勇者を含め様々なアプローチで洗い出しをしなければならん……時間が掛かる上に、そもそも勇者オルトが捕まった時点で証拠など隠滅されていることだろう」
「勇者オルトについては?」
「契約関係の魔法を付与されており、核心部分を喋ることはできない状態だ。とはいえ、さすがに牢屋の中にいる彼をどうにかする、というのは組織側もやってこない様子」
「足がつくからですね」
「オルトの口から何かを話すリスクよりも、彼に危害を加えてその情報を基に組織を暴かれるリスクの方が上だと考えたのだろう……魔法に対し絶対の自信を持っているのだろうな。現在、様々なやり方で魔法を解くことができないか試しているが、成果は芳しくない」
「……勇者が構築した魔法だとしても、ディリウス王国の技術者達が解けないほどのものなのですか?」
「そこだ、シャンナ。一つ興味深い報告が入った」
国王がそう語ると、室内が静まりかえる。
「勇者オルトに付与されていた魔法……それには、人間が構築したとは思えない技術が使われていると」
「技術……?」
「それは古の遺跡などで発見される特殊な術式と構造が似通っていた……端的に言うならば『混沌の主』に付き従っていた存在の力だ」
それは――と、室内がざわついた。
「組織の勇者が遺跡などから手にした術式を応用したのか、それともどこかで手に入れたその力を有効利用したのか……後者であれば当然、極めて危険だ」
「下手をすれば『混沌の主』が復活すると?」
「今はまだ、その段階に至っているわけではないだろう。だが、決して夢物語という話でなくなってしまったのは確かだ」
――この世界を危機に陥れた存在が現れるかもしれない。そんな情報は室内の空気をさらに重くする。
そうした中、シャンナは冷静に国王へ語る。
「現時点で組織の目的はわかりません。しかし『混沌の主』を復活させて世界を滅ぼす、なんて無茶をやるようにも思えませんが」
「そうだな。勇者オルトはおそらく現在のディリウス王国のあり方に不満を持っていたのだろうが、さすがに『混沌の主』を蘇らせるために所属していたとは到底思えない……が、組織がそうした力を用いるのであれば、何かの拍子で最悪の可能性が生まれてしまう、ということは念頭に置いておくべきだろう」
「であれば、私達は早急に組織の全容を暴く必要がありますね」
「うむ。調査については勇者ユークに任せておくことはできん。我らの力をもって、事態の解決に当たるとしよう――」




