今後の方針
「……なんだか、不思議な方でしたね」
シャンナが姿を消してから、アンジェが口を開いた。
「つかみ所がない、というか……」
「そうだな……とはいえ、嘘は言っていなかった。俺達の旅を楽にするために色々と手を打ってくれたみたいだ」
そう言いつつユークはアンジェへ指示を出す。
「というわけでアンジェ、帰ったら報告書を頼むよ」
「シャンナさんが報告すると言っていましたが……」
「シアラと出会ったことはしっかり説明した方がいい……それと報告書にはシャンナさんにも伝えたが、という前置きで記してくれ」
――その口上でアンジェは何が言いたいのか察した様子。
「もしシャンナさんがここで起きたことを報告していなければ……」
「途端に王様とかから糾弾される……ま、さすがにあの人が勇者オルトが関わっていた組織の人間であるとは考えにくいけど、一応ね。保険みたいなものだよ」
「……わかりました」
アンジェは同意。それと共に一つ質問を行う。
「それでユーク様、これからどうなさいますか?」
「まずは武具を手に入れる。シアラの所へ向かうのはそれが終わってからでいい」
「そうですね……シアラ様の方も特に期限などがあるわけでもなかったですし」
「よし、それじゃあ戻るとしよう」
森の中で色々あったことを振り返りつつ、ユーク達は歩き始めた。
町へ戻るとまず魔物の調査報告を行った。さすがに純白の魔物については語らなかったが――内容についてギルド側として満足のいくものだったか、無事依頼料は支払われた。
「ユーク様、そういえば武具についてお金はいるのでしょうか?」
「俺の本名が記載されたギルド証を提示すれば入れる、ってことは国が管理している場所だろう。たぶん、お金は掛からないんじゃないかな。そもそも、必要ならシャンナさんが話しているだろう」
「それもそうですね……貯めたお金はどうします?」
「当面の旅費に……十分過ぎるくらいだし、今度シアラの所に行くとしたら、必要なくなるかもしれないな」
と、ここでユークは使い道について一つ思いついたことがあったが――それは言及せず、
「ま、持っていてかさばるレベルでもないし、いざという時に入り用になるかもしれないから、持っておこう」
「わかりました」
「戦士ギルドにはお金を預かってもらうシステムとかあったはずだけど、同じ場所でしかお金は引き出せなかったはずだし、旅をし続ける俺達にとっては不都合だからな……盗まれないようにしないといけないな」
「はい、わかりました」
「ちなみに、何か欲しい物とかはあるか?」
「いえ、何も」
即答だった。個人的な欲求というものが、どうやらないらしい。
(勇者として模範的な人間、ということではあるんだろうけど……)
国としては滅私奉公で動く勇者が何より望ましいだろう。加え、そういう風な人間にするために色々とやっているのも事実。
(勇者オルト……現在の勇者制度自体が歪みをもたらしているのは間違いない。だからこそ、彼のような人間が出てきてしまう)
ユークは修行をしている間に人間社会に触れることができたため、勇者制度そのものに疑問を抱くようになったのは間違いない。だが、
(でも、変えるとしてもそれをどうやって果たすのか……そこについては、俺一人ではどうしようもないな)
だからといって、勇者オルトのように無茶苦茶なことをするわけにはいかない――
(……勇者オルトが所属していた組織は、凶悪な魔物を生成している……そして、きっと俺達が発見した魔物だけに留まらないだろうな)
「……アンジェ」
「はい、ユーク様」
「今後も調査は続けていくことになるけど、これからは戦闘に入る危険性がぐっと上がる」
ユークの言葉にアンジェはコクリと頷いた。
「大森林での騒動を踏まえれば、様々な場所にああいった魔物がいるかもしれませんからね」
「そうだ。よって、俺達は今まで以上に気を引き締めないといけない。とはいえ、だ。ずっと眉間に皺を寄せていても、なんだこいつはと怪しまれるだけだ」
「それはわかりますが……」
「勇者オルトが捕まったことで何やら騒動がある、という認識を人々はしているが、大半の人にとっては自分には関係にないことだと考えている……平和ボケ、なんて言い方をする人だっているかもしれないが、俺はこれでいいと思う」
「誰にも知られぬところで解決する……それでこそ、平和であるということですね」
「そうだ。組織が人々に危害を加えるようなことになったら、俺達の負け。そういう認識で頼む」
「はい。今以上に情報収集などをしなければ……」
「いや、そこは国に任せつつ、俺達は俺達にしかできないやり方で情報を集める」
「それは……様々な場所へ赴き調査、などですか?」
「それもあるけど……ま、色々とやり方はある。だからアンジェ、今後もよろしく頼む――」




