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勇者は集い――

「まず、私がここにいる経緯から説明しましょう」


 森の中、女勇者シャンナはユーク達へ話し始めた。


「確認ですが、私は正真正銘本物です。幻影や使い魔を介してここにいるのではありません……それは、ご理解できますか?」

「……ああ」


 やや間を置いてユークは応じた。過去、シャンナという人物に会ったことはない。だが、醸し出す空気と呼吸と共に発する魔力は歴戦の戦士そのものであり、ただ佇んでいるだけだというのに隙がなく、攻撃をしようとしても足がまったく動かない。

 彼女は武器を持っていないにも関わらず、そうした気配――ドレス姿ではないのでそれなりに動けそうではあるが、貴族服である以上、森の中で行動するなど普通は考えられない。けれど彼女は深い森の中でも涼しい顔をしている。


 ユークとしては得体の知れない存在と映ったのだが――そんな心境の中、シャンナは続ける。


「私がここへ赴いたのは、直接やりとりした方が良いという判断です。まずはあなたに感謝を。勇者オルトの一件、解決してくださりありがとうございます」

「……別に礼を言われるようなことはしてないけど」


 右腕は剣の柄を握ったまま応じるユーク。シャンナはその点を指摘してもおかしくはないのだが、彼女は気にせず話を進める。


「なおかつこの大森林内……厄介な魔物がいること自体は周知されていましたが、正体についての考察はできていませんでした。その様子だと、何かしらつかめたようですね」

「……勇者オルトが従えていた魔物と雰囲気が似ていたよ」


 ユークが語るとシャンナは「なるほど」と呟いた。


「そこに関わってくると……実は姿は違えど正体不明の魔物、というのはディリウス王国内で他にも報告例があります」

「ということは、似たような魔物がいくつもいる?」

「そのようですね。勇者オルトが所属していた組織……ここについては情報が不明瞭ですし、あるのかも現時点では不明ですが、存在があると仮定した場合、彼らが動いているということなのでしょう」

「……その辺りを調べて欲しいと?」


 ユークが先読みをして問い掛けると、意外にもシャンナは首を左右に振った。


「いえ、私達が責任を持って調べます」

「……口上から察するに、俺達の出番はない、とでも言いたげだな」

「本来ならば、国として動くべきものであるのは間違いないでしょう」


 と、シャンナはどこか無念そうに語る。


「勇者として経験をほとんど積んでいないあなたに任せる、という時点で異常であるのは間違いありません」

「……でも、俺は旅をやめるつもりはないぞ」

「城へ赴く気はない、ということですね」


 ユークは首肯する――シャンナの表情はむしろ当然だろう、という雰囲気がある。その視線はどこか真実を射抜いている風にも見え、ユークとしてはなんだか居心地が悪い。


(さすがに家出しました、ということは誰にも話していないし、露見することはないと思うけど……)


 ユークは考えながらシャンナを見据える。その視線からは心情などを窺い知ることはできない。


(心を読まれない鍛錬をしているか……『戦士院』の長なら王様とかから信頼を得ているはずだし、さすがに大丈夫かな?)


「何か?」


 小首を傾げながらシャンナは問う。


「と、さすがに警戒するのは当然ですね……私がここに来ているという経緯そのものが謎ですし――」

「ここに来たのはアンジェが作成した、勇者オルトに関する報告書を見たためだろう」


 ユークがシャンナの言葉を遮りながら発言すると、彼女は無言となった。


「けど書面に居所は伝えていない……加え、あの事件後俺は魔力を偽装し、アンジェにも同様の処置を施した」

「……いつの間に?」


 初耳だったかアンジェが問う。それにユークは、


「処置、といっても簡単な魔法だから一瞬で終わるものだよ。ともかく、アンジェが俺の所へ来たように魔力を辿ることは難しくなっていたはずだが、勇者の武具に関することを記してあったから、俺達が次にどこへ向かうかはある程度推測できる……武器の強化、すなわち鍛冶の町だ」


 ユークの言葉にシャンナは沈黙したまま頷く。


「あとは簡単だ。あなたの権限なら町のギルドに話を通せば、俺達の情報を探ることはできるだろう……事前に俺達の人相について情報を持っていれば、二人組の男女で活動している人物について聞き込みをすればいい。で、あなたの立場ならギルドで請けた仕事内容なんかも簡単に聞き出せるだろう」

「……私の名を聞いた直後、そこまで思い至ったのですか?」

「まあね」

「なるほど、噂に違わぬ御仁のようです……というより、国側がこのように干渉してくることを想定していましたね?」

「ああ」


 返事をするユークにシャンナは「なるほどなるほど」とどこか納得したような表情を見せつつ、向ける視線は驚きを含んだものであった。


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