様々な推測
ユーク達はやがて純白の魔物がいる場所に接近する。肝心の魔物はいくらか移動をしているのだが、周辺に魔法を放つような破壊工作をしているわけではなく、近くに人間がいなければ森の中をウロウロしているだけの様子。
「何が目的なんでしょうか?」
いよいよ魔物が視認できる、という寸前に至りアンジェがふと疑問を呟く。
「森にいる人間を見つけたら攻撃をするみたいですが……」
「それは少し違うわね」
と、シアラが反応した。
「より正確に言うと、殺気を向けたら襲い掛かってくる、かしら」
「殺気……ですか?」
「たぶん人間が発する魔力に反応して動いているのだと思うわ。無差別に攻撃するようなことがあれば、さすがに大騒動になっていると思うし」
「なるほど……例えば森に木の実などを採取するような人間は、魔物を発見したら逃げるので狙われないと」
「そうね。目撃情報などはあったのだけれど、被害を受けた人間がいない、という点からもあの魔物が特異な存在であることがわかるわね」
「普通の魔物とは違うのが明らかですね」
会話を耳にしながらユークも内心で同意する。
(魔物を見つければ人は逃げる……普通の魔物なら間違いなく追い掛ける。なぜなら魔物は魔力を持つ人間を捕食しようとするから。でも純白の魔物は違う)
「……純白の魔物は、あくまで魔物を狙っている」
ここでユークは口を開いた。
「人間なんて基本眼中にない……ただ、攻撃を仕掛けてくるなら自衛するという感じかな」
「たぶんそうね」
と、シアラはユークの言葉に賛同した。
「遠距離魔法を主体に使うのは、人間に接近されると面倒だから、かしら」
「森の中だし、魔法の方が効率的に戦えると考えたのかもしれない……制作者の意図はどうあれ、あれが人為的に生み出され、魔物を喰らい活動しているのはほぼ確定かな」
「大森林内に魔物がいなくなったらどうするつもりなのかしら」
「さすがに広大な森の中で魔物が一体もいなくなる……なんてことは、考えにくいな。純白の魔物が十体や二十体いればさすがに魔物が絶滅するかもしれないけど、一体二体程度なら問題はないだろう。今は森中に魔物が少なくなっているみたいだけど、いずれ数は増えるさ」
「……なら、制作者の目的は? 単なる実験ということで間違いないのかしら?」
シアラの意見に対し、ユークは肩をすくめた。
「それは当事者に聞いてみないとわからないな……そもそも、魔物を作り出して何をするつもりなのか」
「勇者が絡む組織である可能性が高いのでしょう? 魔物を利用すれば勇者はいくらでも名声を高められるし……やりようはいくらでもあるわよ」
「仮に魔物を用いるにしても、純白の魔物くらい強力である必要性はないんと思うんだけど」
「……魔物の強さの問題か」
シアラは考え込む。その間にも少しずつ純白の魔物へと近づいていく。
「わざわざここまで強くするのだから、何か理由があるって話ね」
「そうだ。魔物の強さは下手をすると勇者ですら手に負えないレベルだ。そんな強さを持つ魔物を生み出して何をするのか?」
「……仮に、純白の魔物が百体いたらどうなると思う?」
「下手すると、王都だってが陥落するかもしれないな」
ユークの発言にシアラは苦笑しつつ、
「……国家転覆とか狙っているのかしら?」
「だとしても、疑問は山ほど残るけどね。武力で国を壊したからといって、じゃあ勇者が国を統治しますといって、人々が納得するとは思えない」
「勇者が魔物を倒し、民衆から支持を得ればいいのでは?」
「それだけで国家を統治できるとは思えないな……魔物は非常に手の込んだ方法で生み出されている。つまり、制作者は相当綿密に魔物の能力を構築しているはずだ。そんなきめ細やかさがあるのに、国を支配するなんて目標があったとしても、武力による支配なんて雑にもほどがあると思う」
ただ――と、ユークは語りながら内心で思う。決してありえなくはない。力による服従で、全てを支配するという考えならば、可能性としてはある。
「……ま、ここまで話したのはあくまで推論だ。魔物が強い理由は別にあるのかもしれないし、話半分に聞いてもらえればいいよ」
「とにかく情報がなさ過ぎるのよね」
「そうだ……純白の魔物から何かしら情報を得られればいいのだけど……さすがに、高望みしすぎかな」
会話の間にとうとうユーク達は大森林を流れる川に辿り着いた。そしてやや距離を置いて、純白の魔物がいた。
ユーク達と魔物との間に木々はなく、川岸には石がゴロゴロとしている――動きにくくはあるが遮蔽物がないため一気に接近することができる。反面、純白の魔物も好きなだけ魔法を撃つことができる。
ユーク達は戦闘態勢に入る。直後、純白の魔物はユーク達を敵だと判断し、明確に魔力を高め始めた。
 




