適任者
「なるほど、勇者にまつわる騒動ね」
ユークは一通り話し終えると、シアラはやれやれといった様子で喋り始めた。
「勇者オルト……名は私も聞いたことがあるわ。そんな人物が魔物の作成に加担していたのなら、相当厄介ね。あと、あなたの目からすれば私達も容疑者に入っていた、ということかしら?」
「魔物と交戦している事実から大丈夫だとは思ったけど、一応ね」
「あなたの旅路については理解したわ……あなたが遭遇した漆黒の魔物とこの森にいる純白の魔物は気配も似通っている。けれど純白の魔物は土地の魔力を利用している雰囲気はない」
「たぶん生成手段が違うんだと思う。勇者オルトが所属していた組織は、様々な場所で魔物の生成実験をしている……だとすれば、この大森林では魔物を取り込んで生成する、という手法を実験しているのかもしれない」
「面倒な話ね……そうなると、非常に厄介な可能性が浮かび上がる」
シアラは語る。それはユークも理解していた。
「純白の魔物は魔物を喰らうことによって強くなるけど、それを効率的にとなったら、大森林のことを知っていないと難しい」
「相手は大森林に関するデータを所持しているのは間違いないでしょう。魔物が実際に消えているのだから。そして大森林は国をまたがっている。であれば――」
「ディリウス王国だけではなく、ログエン王国の勇者も関わっている可能性がある」
結論によって、この場にいる四人は全員等しく顔つきを厳しくした。
「……話がだいぶ大きくなってきたな」
「勇者オルトのスキャンダルから、相当話は大きいと思うわよ……ユーク、この可能性が真実であるなら、むしろ今回の一件をきっかけに私達が手を結び大々的に動く選択肢もあるけど、どう?」
「……俺達が先頭に立って、組織を追い掛けるってことか」
「そう。あなたは自分が狙われないよう、居場所の報告を最小限にして動き回っているのよね? それは国に頼れない……組織には国の執政を行う人間が混ざっているかもしれないというのを、考慮している」
ユークはシアラの言葉に頷く。
「そうだな」
「でも多少なりとも信頼できる人間の協力があれば話は別、よね?」
「その信頼できる人間というのが、シアラ達になると言いたいのか?」
「そう」
(……臆面もなく言うなあ)
ちなみにユークはシアラやランネが発する気配から、この問題を解決したいという強い感情があるのを見て取っている。
(少なくとも嘘は言っていない……が、国をまたぐという話になると俺だけで判断していいのかわからないな)
「……今回のこと、報告書で連絡してもいいか?」
「国に、ということね? もしディリウス王国内に組織と手を組む者がいたら、私が真っ先に狙われそうね」
と、ここでシアラが不敵な笑みを浮かべる。
「私としては望むところ」
「……シアラが受けて立つとしても、現当主とかがどう判断するかわからないぞ」
「当主は私だもの」
発言に対し、ユークは眉をひそめる。
「え?」
「私の両親は流行病で亡くなっている。だから、当主は私」
それを聞いて、なるほどとユークは理解する。同時に、
(……彼女以上に、手を組む適任者はいなさそうだな)
ある種裏表のない性格に加え、組織の話を聞いて以降にそれを成敗してやろうという強い感情もある。
(国の中枢において組織に関わる人間がいるかもしれない、ということで拠点なんかを作らなかったわけだけど……彼女は社交界に入っているにしろ、政治に携わっているわけじゃない。なおかつ勇者として活動している……他国の勇者であるという問題はあるが、そこについてはなんとかなるだろう)
ただ――家出をして旅をし始めた状況とは様変わりしている。
(でも、仕方がないか……それに、魔物を生み出す組織なんて放置できないし……ま、やりようはあるか)
何も戦いに全てを費やす必要はない――そこまで考えてユークは、
「わかった。シアラの境遇を考えれば、俺達はあなたに頼るのがよさそうだ……ただ、ちゃんと国からの許可はもらわないといけないな」
「その辺りはどうとでもなるわ」
満足そうな笑みを見せながらシアラは言う。
「久しぶりの客人ということね。屋敷の中も掃除しなければいけないかしら」
「……俺達を迎える準備をするのはいいけど、まずは目先の魔物について注意を払ってくれよ」
「ええ、そうね。まずは何より、純白の魔物の討伐ね」
気を引き締め直すシアラ。それと同時にユークは魔物の動きを捉える。
「移動を開始した。ディリウス王国側に入り込んだぞ」
「他に魔物はいるの?」
「現時点では観測できていない……少なくとも今の段階では、大森林にいる純白の魔物は発見した一体だけだ」
「あくまで今の段階では、ね」
シアラが言う。ユークは頷きつつ、
「とりあえず、その魔物を倒してから今後のことは考えよう――」