作戦会議
ユーク達は四人で魔物を倒すべく動き始めた。その道中、遭遇した場合に備えて作戦を立てることにする。
「シアラさんは見た目通り、前衛って感じでいいか?」
「そうね。ランネは護衛役……私の目が届かない場所に注意を配る役目ね」
「で、アンジェは騎士で魔法も使えるけど基本は俺と一緒に戦う……後衛もできるけど、基本は全員前に立って戦う感じか」
「あなたは後ろに控えていても自信ありそうだけど」
と、シアラはユークへ視線を流しながら告げる。
「あの魔物を確実に倒せるのはあなただけでしょうから、前衛に立って欲しいところね」
「俺も戦う気でいるけど……あの魔物は間違いなく魔法攻撃のみを使用するタイプだ。懐に飛び込んで斬るという戦法は最適解だと思うけど、可能であれば援護とか欲しいところだな」
「――ならば、私が」
と、声を上げたのはシアラの従者であるランネだ。
「先ほどの戦いで負傷しましたし、前に立って攻撃を食い止めるのも難しいでしょうから」
「扱える魔法は?」
問い返したユークに対しランネはいくらか魔法の名を告げる。そこで、
「うん、なら魔力を相殺する魔法……それを準備して欲しい」
「何か手が?」
「遭遇した場合、魔物から魔法が飛来してくる。どの程度の距離で敵が俺達を認識するかわからないから、気配をつかんだ段階で準備してもらうことになる。で、魔法を撃ったタイミングで魔法を相殺。その間に俺とシアラさんが接近して、倒す」
ユークは説明するとアンジェへ顔を向けた。
「アンジェの方も同様の準備をしてもらえるか? 魔物が連続で魔法を撃ったなら、ランネさんに続いて対処をお願いしたい」
「わかりました……しかし、魔法を完全に相殺できるかはわかりませんよ」
「威力を減らすレベルで問題ない。俺やシアラさんなら、ある程度相殺できた魔法なら当たっても被害はないだろうから」
「威力を減らして強引に突破するという形ね」
作戦を理解したシアラはユークへ述べ、
「その作戦で構わないけれど、問題は他に魔物がいた場合ね」
「索敵した限り、周囲に他の魔物は見当たらない……不思議なのは、野生の魔物もいないこと。仮にいたとしても妨害してくることはないと思うけど」
「――そういえば」
ふいにランネが口元に手を当てながら声を上げた。
「あの純白の魔物が出現して以降、明らかに野生の魔物が減りましたよね」
「むしろ、激減と言っていいレベルね」
シアラが続く。そこでユークは眉をひそめる。
「純白の魔物が魔物を倒して回っている?」
「私は最初、そういう推測をしたわ。自分のテリトリーを守るため、範囲内にいる魔物を倒す……でも、大森林全体で魔物が減っている。かといって純白の魔物が多数生まれているわけではない」
「……もしかして、純白の魔物は野生の魔物を取り込んで強くなっているのか?」
そんな推測をユークが述べると、一同沈黙する。
(現時点では断定できないけど……漆黒の魔物は大地の力を借り受けていた。一方、純白の魔物は――)
「シアラさん、質問いい?」
「……さん付けは必要ないわ。その代わり、こちらも名前で呼ばせてもらうけど」
「ああ、いいよ……シアラ、純白の魔物が現れたタイミングで、土地の魔力とかに変化はあったか?」
「土地? ああ、魔物が土地由来の魔力で生成されたのなら、森林全体に異変が生じるかもしれない、というわけね」
シアラは何を言いたいのか瞬時に察し、話し始める。
「常に観察を続けているわけではないけれど、純白が現れた前後で森林に異変があったというのは、観測されていないわね」
「だとすると、魔物を取り込んでいる可能性は否定できないな」
「……疑問なのだけれど、人為的な魔物だとしても土地の魔力を利用するかしら?」
――現段階で、ユークは漆黒の魔物と遭遇し打倒したことについて話していない。それは目の前の勇者が組織に関わりがあるかもしれない、という可能性を考慮してのものだったが、
(これまでの話で二人が嘘を言っている様子はない。加え、勇者オルトのように怪しい気配を漂わせているわけでもない)
話してもいいか、とユークは思いつつアンジェへ目を向ける。彼女は小さく頷いた。ユークの判断に従うということだろう。
ならば、とユークは口を開く。
「ここからの話は、秘密にしてもらいたいんだけど」
「ずいぶんと深刻そうな顔ね……もしかして、ディリウス王国側も色々と問題があるのかしら」
「そうだな」
「……口外しないと約束するわ。話して」
「おそらく現段階ではディリウス王国内だけで話は留まっているけど、いずれ公になるだろう。実は少し前に――」
ユークは歩きながらシアラ達へ語り始めた。




