初陣
やがてユークは大きな町へ辿り着く。ディリウス王国における中央に存在する交易都市であり、名はバンテル。
これだけ人が多ければ、自分も目立たないと思いながらユークは仕事を得るためギルドを訪れる――ギルドは商人が集まるものを始め、鍛冶、酪農、漁業など様々な産業のものが存在する。ギルドは国家が承認する形で生まれ、一定の品質などを要求される。その代わり、ギルドに所属しているということは国のお墨付きという形で商売ができる――とはいえそれはたった一つというわけではない。
一つの産業に対し、いくつもの商業系ギルドが存在する――たった一つでは自由な競争にならないということで国に対する不満も生まれてしまったので、ギルド同士で争うという形に方針を転換したらしい。
――そういう内容の書物をユークは頭の中で思い出す。この施策が成功したのかはわからないが、とりあえず色々なギルドがしのぎを削り競争が起きているのは事実らしい。
そしてユークが訪れたのは戦士ギルド――魔物討伐や商人護衛など、国の手が回らないような仕事を斡旋するギルドである。戦士、と名はついているが所属する者は千差万別であり剣で生計を立てる傭兵、日銭を稼ぎながら世界を回る旅人、あるいはかつての人間が遺した遺跡に潜り一攫千金を狙う冒険者――といった色々な人間がいる。
よって、このギルドは傭兵ギルドだったり冒険者ギルドであったり、色々な呼ばれ方をする。そして他のギルドとは異なり戦士ギルドは物ではなく『情報』を扱うため、他とは異なり同業のギルドが存在しない。情報は国と共有し、騒動が起きた場合は協力して解決に当たっている。
国側としても様々な情報を吸い上げ、魔物の発生地点などを把握する意味合いがある――ユークはバンテルのギルドで一つ仕事を請け負った。内容は山の調査。付近にある山岳地帯に魔物がいたため、その数などを調査して欲しいと。
あくまで調査であるため、その詳細を報告すれば依頼は達成される……こういう依頼はそれなりに仕事をこなして信用における人物にしか回ってこない。ロクに調査もせずに虚偽申告されたら大問題に発展するためだ。
よって、仕事をこなしギルドランクを高めた人にしか回ってこない……しかしユークはギルドに所属しそれなりに実績があるため、ギルド証を提示しあっさりと仕事を得られた。
報酬はそれなりで、装備を整えるにはまだ足りないが――まずは最初の一歩だ、とユークは思いながらギルドを出た。
町を訪れたその日は宿をとって一泊。その後、ユークは目的地である山へ向かった。
「調査名目だけど、群れを成していたらその場で倒すか」
数が多ければ近隣の村や町に被害が出るかもしれない――というわけで、ユークは街道を進む。やがて山へ向かう道へ進んだ際、人気が少なくなったタイミングで足に力を入れた。
それは魔法――普通、詠唱などを行い発動させるものだが、ユークが使用したのは身の内に存在する魔力を練り上げ、体を強化する魔法。詠唱の必要はない。
直後、足に魔力をまとわせると同時、ユークは地を蹴った。それにより、まるで跳躍するように――山への道を駆け抜ける。
あっという間に森の中を抜ける山道へ到達すると、悪路に加え上り坂である道を駆けていく。まるで無人の野を走るようなであり、なおかつユークは息一つ切らしていない。
これは家出する前に町と家を往復するために使用した魔法であり、ユークにとって使い慣れた魔法。制御は完璧だった。
そして木々を抜けた先に岩場が見えた――同時、ユークは立ち止まる。
「……いるな」
気配がした。それは幾度となく感じたことのある気配。人に害をもたらす空気である瘴気。それを漂わせる、悪しき怪物。
それが魔物であり、奴らは人間に吸い寄せられ近づいてくる――魔法を使いここまで来たユークを、魔物はしかと捕捉し目の前に何体もの魔物が姿を現した。
その見た目は、大型の野犬――とはいえその体は獅子くらい大きく、なおかつ体毛は赤い。そうした魔物が合計で四体。ユークはそれを見て、
「何者かが作成した魔物、とかではないな。自然発生してこの山を住処にして、動物を喰らっていたか」
魔物の発生原因は主の二つ。一つは自然発生であり、大気に存在する魔力が一つどころに留まると澱んだ悪いものへ変化し、瘴気となり魔物が生まれる。もう一つは何者かが創生した場合だが、ユークは違うと断定した。
理由は魔物がまとう気配。自然発生と誰かが作成した魔物とでは構造が違う。目の前の魔物達は――自然に生まれた気配を明確に漂わせていた。
「旅を始めて初陣だ……きっちり、仕留めさせてもらう」
剣を抜く。無骨で使い古された剣を構えると、途端に魔物は威嚇のためかうなり始め、一体がユークへ向け突撃を開始した。
