純白の魔物
豪快な女勇者の剣戟によって純白の魔物による魔法は消し飛んだ――が、魔物はまだ攻撃を加えようとする。その手にさらなる魔力を感じ取り、ユークはあることに気付いた。
(直接攻撃ではなく、魔法による攻撃が主体……?)
再び放たれる魔法。だがそれも女勇者の一振りによって消える。魔物の能力は十分高い。しかし勇者の能力も高く、彼女が優勢な状況。
(従者は負傷したけど、あの調子なら援護に向かわなくても大丈夫か?)
ユークはそんな風に思いつつも足は止めない――その直後だった。再び純白の魔物が魔力を高めた。いくら何でも早い、とユークが思った矢先、またも魔法が生まれた。
しかも今度は光の矢ではなく、光の槍。しかも人間を軽々と飲み込んでしまえるほどの大きさを持ち、これが炸裂すればいかに勇者とて無事では済まない――
女勇者は槍が放たれるより先に剣を薙いだ。剣戟が光に叩き込まれ、魔法は――
「っ!?」
彼女は呻いた――剣によって魔力を減らすことには成功したが光の槍は、消えない。どうやら彼女が破壊できないだけの魔力を把握し、魔物は魔法を構築した。
結果、彼女は最早避けることができない。絶体絶命であり、従者の男性が何事か叫んだ――その時、
「はっ!」
ユークの援護が入った。渾身の剣が光の槍へと繰り出され、純白の魔物が解き放つよりも前に、消し飛ばすことに成功する。
「――あなたは」
「話は後だ!」
ユークは叫びながら純白の魔物へ肉薄。魔物は再び魔法を使おうと魔力収束を始めたようだったが、それよりもユークの剣が速かった。
その体躯へ、剣が入る。斬った感触は鉄に刃を入れているかのように固かったが、それはユークにとって経験したことのある感覚。
(二度遭遇した、漆黒の魔物に似ているな……!)
ただ、あれよりも少しばかり固い――原因はすぐにわかった。純白の魔物は瞬間的に身を守るべく魔法により結界を構成した。とはいえそれは薄い膜のようなものであり、ユークの剣を防ぐには至らない。
しかし、致命的な一撃を避けるには役立った。まだ純白の魔物は倒れない。明らかに魔力を消耗しているが、それでもなお反撃するべく両手に魔力を集め始める。
だが、その動作は先ほどと比べ明らかに鈍かった――ユークの剣が再び入る。そして一歩遅れて体勢を立て直した女勇者の剣もまた叩き込まれ、二つの刃によって、とうとう純白の魔物の体が崩れた。
決着は一瞬のこと。ユーク達の攻撃によって、魔物はまるで最初からいなかったかのように塵へと変じ、消滅した。
「……助かったわ」
女勇者が言う。金髪に翡翠の色の瞳。間違いなくユークがレイテオンで遭遇した女性であった。
装飾過剰とも言える鎧もそうだが、気品というものをまるで隠そうとしていない。誰の目から見ても高貴な身分の人物であることは予想がつき、ユークはあえてそれを見せているのだろうと察することができた。
(その理由は……プライド、かな)
とはいえユークの助力には純粋に感謝し、また心底安堵している様子であった。
「助けられたわね……見た目的に私と変わらないくらいかしら。勇者、でいいのよね?」
「……そうだな。あなたはログエン王国の勇者、でいいんだよな?」
「そうよ」
「わざわざディリウス王国に入って活動している……あなたのことはレイテオンでも見かけた。何か理由があるんだな?」
おそらく先ほどの魔物に関することだろう――ユークは内心で予想しつつ、これはさすがに関わるべきだろうと判断。突っ込んだ質問をした。
ここで彼女が「あなたが知る必要などない」などと冷たくあしらわれてしまったら終わりなのだが――女勇者は、
「そうね……どうやら、助け船かしら。もしよろしければ、手を貸してもらえない?」
ユークはアンジェのことを見た。先ほどの魔物を思い出してか、彼女は小さく頷き同意した。
「……ああ、わかった。とはいえまずは互いに自己紹介……いや、その前にあなたの従者を治療しないと」
「助かるわ。治癒系魔法って苦手なのよ」
「私がやりますね」
アンジェが言う。騎士として教育を受けてきたためか、治療系の魔法も修練している様子。
「なら俺は周囲を警戒しよう。似たような魔物が他にいないとも限らないからな……治療が終了次第、事情を聞くとしようか」
「わかったわ」
女勇者は了承する。そしてユークは索敵魔法を使用。周囲の警戒に当たる。
(……他に魔物はいないな)
「確認だけど、似たような魔物と遭遇したことは?」
「二度ほど。でもそれらは全てログエン王国領内よ」
「……つまり、この大森林におけるログエン王国側か」
ユークはなぜ彼女がここにいるのかをおぼろげに理解しつつ警戒を続ける。その間にアンジェは男性に治療を施し――やがてそれが終わった後、泉の近くで座り込み話をすることになった。




