二人組
ユークが捉えた二つの気配は、何かを見つけたのか森の奥へと向かっていく――大森林中央には大きな泉が存在しており、どうやらそこへ向かっている。
泉はディリウス王国側に存在し、その泉へ流れる川が隣国との国境線となっている。そこでユークは、泉付近に別の気配を感じ取った。
「……魔物がいるな。そして見つけ出した二人の人間はその魔物へ向かっている」
「魔物討伐が目的でしょうか?」
「かもしれないな。一目散に突き進んでいるから、大森林内にいる魔物を倒せとか、賞金首を見つけたとか、そういうことなのかもしれない」
「どうしますか?」
その人物達と関わるか否か。ユークは選択に迫られ、
「……大森林内に存在する魔物に関して何か情報を持っているかもしれない。一度顔を合わせることにしようか」
「わかりました」
直後、ユーク達は一気に駆ける。森の中を突っ切るように、障害物などものともせず、目的地へ向かって進んでいく。
その途中で、戦闘が始まった。ユークが感じ取れる気配では人間二人が魔物へ突撃。魔物はそれに反撃したのか大きな魔力が生まれ――人間達は距離を置いた。
「ユーク様」
その時、アンジェが声を上げた。
「発見した人間と、魔物の能力は?」
「……感じた限り、双方ともかなり強いな」
返答する間にも、再度突撃する人間二人。だがそれを魔物ははね除け、反撃するべく一際大きな魔力を生み出した。
攻撃は――どうやら人間達は回避した様子。その段階でユークは接近したためさらに微細な気配を感じ取れるようになった。
「……あー」
「どうしました?」
人間二人と、魔物がどういった存在なのかをおおよそ理解したユークに、アンジェは問い掛けた。
「そのご様子だと、何かわかったようですね」
「……アンジェ」
「はい」
「人間二人、昨日見かけたログエン王国の二人組だ」
その言葉でアンジェの口が止まる。
「そして、魔物は……漆黒の魔物とは違うのは確かなんだけど、どうやらかなり強いな」
「強い……ですか」
「捉えどころがない気配で、能力の全体がずいぶんぼやけている……確実に魔物自身が何かやっている。こんなことをする技術があるというのは、相当手強い証だろ?」
「確かに、そうですね――」
そうした会話の直後、ユーク達はとうとう泉付近にまで辿り着いた。
ユークは泉を視界に入れる前に一度立ち止まった。耳を澄ませば、キン、キンという金属音が聞こえてくる。そこでアンジェが、
「もう少し近づいて戦闘を観察しますか? それとも、助けに入りますか?」
「……周囲を警戒しつつ進もう。索敵魔法でも捉えきれないような魔物がまだいるかもしれない」
ユークは告げながら、慎重に歩を進める。その間も人間達は仕掛けているが、どうやら攻めあぐねている。
(魔物の気配の濃さが変わらない……ということは、魔物に攻撃を当てられていないということだろう)
そう確信した直後だった――轟音が、森の空気を切り裂いた。
魔物の魔法だ、と直感した瞬間にユークは周囲に目を配った――他に気配がないか再度確認する。
「ユーク様」
そうした中でアンジェが声を上げた。
「周囲は私が目を配ります」
「……わかった。一気に進むぞ、何か見つけたらすぐに報告を」
「はい!」
ユークは走る。一気に森を抜けると、泉近くに町で遭遇した女性とその従者である男性がいて、魔物と向かい合っていた。
先ほどの轟音――魔法がどのようなものだったかは不明だが、少なくとも従者の男性を負傷させる程度には威力があったらしく、彼は片膝をつき、女性が一人で魔物と対峙していた。おそらく彼が女性をかばった結果、目前の光景があるのだろう。
女性の立ち姿は遠目から見ても正道であり、騎士としての教育を受けてきたのはわかるが――魔力を感じ取ってユークは悟った。
(彼女は……勇者だ)
内心で断定した直後、ユークは魔物へ視線を向ける。一言で表すならば純白の人間。ユーク達が遭遇した漆黒とは対極の、頭の先から足下まで全てが白い魔物だった。
頭部には仮面のようなものが着けられている。その奥にはおそらく何もないだろうとユークは推測しつつ、魔力を探る。
(……勇者オルトが操っていた魔物とは違う。でも、性質そのものは似ているか?)
果たしてこれは関係があるのかないのか――疑問に思う間に女勇者が魔物へ挑む。そこでユークはさらに走る。目的は勇者の援護である。
それに対し純白の魔物は、まず目先の勇者に目標を定めた。間合いを詰め一閃された刃を易々と防ぐと、一歩後退して右手をかざした。
魔法だとユークが直感した矢先、一気に魔力が収束して放たれた。それは光の矢となって勇者へと襲い掛かる――が、それに対し彼女がとった行動は、全力で剣を薙ぐことだった。
「はっ!」
声と共に豪快に振り抜かれた刃。それと共に生じた風によって、光の矢は全て弾け飛んだ。剣戟に魔力を乗せて振ることで、風により魔力が拡散。その結果、魔法を消し飛ばしたのだった。




