奇妙な人物
そうしてユーク達は適度に仕事をこなしつつ、多数の武器屋が立ち並ぶ町、レイテオンに到着した。バンテルなど、交通の要所と比べ大通りを行き交う人の種類が大きく違う。商人がいることは共通しているが、傭兵や冒険者といった風体の人間が、圧倒的に多い。
「ふむ……」
ユークはそうした光景を見ながらふと思う。
(勇者オルトの関係者がいる可能性もあるよな……例えば泊まる宿の窓を開けて怪しい人物がいないか調べる、とかやるべきかな?)
「とりあえず宿の確保と仕事の確認かな」
「はい、わかりました」
アンジェは賛同。それからまずユーク達は当面の拠点となる宿に入る。
資金的には余裕はあるが、滞在する間も費用はかさんでいく。どれだけ効率的に仕事をこなせるかが勝負になるだろう――そんなことを考え戦士ギルドへ足を向けようとした時、
「……ん?」
ユークは人だかりを発見した。そこはどうやら武器屋らしいのだが、その店を囲むように多数の人がザワザワしている。
「あれは何でしょう?」
アンジェも気になったか声を上げた。ユークもまたそちらへ歩を進める。
やがて、店の中から何者かが出てきた。ずいぶんと豪華絢爛な――過剰なほど装飾が施された鎧を着た、騎士みたいな出で立ちの女性であった。蜂蜜を溶かし込んだような金髪と翡翠のような瞳を持ち、鎧姿は勇壮かつ美麗。人目を引く存在であるのは確かだが、ユークはなんとなくその出で立ちによって人だかりができているわけではないと察する。
そして女性を守るように男性が一人。
「見世物ではないぞ」
男性が言う。黒髪を持つ旅装姿の人物なのだが、その声は遠くまで響くほどにしっかりとしていた。やがて周囲にいた人だかりは退散していく。そこで女性は、
「まったく、あまり長期間滞在できそうにないわね……次に行くわよ、ランネ」
「はい、お嬢様」
(姿格好は変だけど、主人と執事って感じか?)
ユークは初見でなんとなく関係性を見て取った時、横にいるアンジェが呆然となっていることに気付いた。
「……どうした?」
「いえ、あの……」
「知り合い?」
問い返すとアンジェは首を左右に振る。
「いえ、会ったこともありませんが……あの白銀の鎧、知っています。あれは……ログエン王国の鎧です」
――それは、ディリウス王国の東側に位置する中央集権国家だ。ユークはそれを聞いて、
「……あの鎧は騎士の? でも、以前本か何かで見た絵はあんな装飾なかったぞ」
「おそらくあれは儀礼的な物でしょう……意匠などの細工は間違いなくログエン王国のものです」
「ということは、わざわざディリウス王国にまで買い物に来ていたってことか?」
「そのようですが……調べてみますか?」
ユークはなんとなくトラブルの気配も感じたが――興味を引いたのも事実。
「あの様子だと目立っているみたいだし、ちょっと調べれば何か出てくるかな?」
「かもしれませんね」
「なら戦士ギルドにでも行って漁ってみるか」
そう決断し、ユークはアンジェと共にギルドへと向かうことにした。
そしてユーク達はあっさりと情報を得ることに成功する――遭遇した女性はログエン王国の人間。ただ詳細についてはわからなかった。
「どういう経緯でここにいるのかは不明、だな」
ユークは語る――時刻は昼、場所は移りとある飲食店でアンジェと向かい合う形で料理を待つ状況。
「騎士か勇者かもわからない。調べるにしてもこれ以上は無理そうだ」
「名前もわからないですね。執事らしき人物はお嬢様としか呼んでいなかったみたいですし、従者である男性の方は名前を耳にしましたが……さすがに情報は出ませんでした」
と、ここでアンジェは首を傾げた。
「武器を求めてきた……としても騎士であればわざわざここに来る必要はありませんよね?」
「そうだな。あと遭遇した女性は俺達に近しい年齢だった……騎士というよりは勇者である可能性の方が高いかもしれない」
「勇者……ですか」
「もし勇者であるなら身構えてしまいそうだけど、別に他国の人間がやってくること自体は違法とかでもないからなあ」
現時点でログエン王国の人間がいるという噂はこの町中で広がっている。もし彼女が勇者であれば、いずれ王都などにも情報が流れる可能性は高い。で、そうなった場合は――
「……ディリウス王国としては、勇者に関する騒動があったし結構神経質になるかもしれないな」
「あの人物が勇者であれば、ですか。他国の勇者もディリウス王国の騒動に関連していると?」
「それが事実でなくとも、色々疑ってしまうのは間違いないだろう……ただこれ以上は調べようがないかな」
「そうですね」
アンジェも同意し、会話が途切れ――けれどユークは思考し続ける。
(勇者であれ騎士であれ、何かしら理由があるよな。従者と思しき男性は旅装姿だったことを踏まえると……)
内心で色々と予想しつつ、ユークはアンジェへ向け言葉を紡いだ。




