次の目的地
ユークが次に目的地と見定めたのは、強力な武具を得られる場所。その道中で一つ仕事を片付け、向かうという算段を立てていた。
「鍛冶の町、ですね」
アンジェが目的地の名を聞いて呟く――その名はレイテオン。ディリウス王国において多数の武具屋が立ち並ぶ町だ。
なぜそういう町が形成されたのかというと、その町の周辺は元々瘴気が漂う森があり、多数の魔物が徘徊していた。その森を排除するために魔物を駆除する必要に迫られ、森の周辺に拠点が生まれ、そこに人が集いいつしか町になった。
森が全て伐採されるまで魔物との戦いは続き、結果的にレイテオンと名が付けられた町には魔物と戦うための武器屋が多数出現し、今もその名残によってディリウス王国内で地位を確保している。
また、鍛冶以外にも魔法関連の技術などを保有する店もあり、それらによって強力な武具を作成することができる――
「とはいえ、完璧を目指す場合は当然ながらお金が足りない」
ユークは街道を進みながら言うと、アンジェは同意するのか小さく頷いた。
「そうですね、現時点で稼いだ資金では……」
「レイテオンも大きな町だから、そこで仕事を請けつつお金を稼ぐことになるかな」
「わかりました」
承諾するアンジェ。そこでユークは、
「何か意見があるのなら聞くけど」
「いえ、それが良いと思いますので」
「もしこれはおかしいな、とか感じたら遠慮無く言ってくれよ。従者ではあるけど、それは何から何まで指示に従う、というわけじゃないからな」
「はい」
頷くアンジェ。この様子なら大丈夫か、と思いながらユークは前を向いた。
「……ユーク様、一つ質問が」
「ん、何?」
「勇者オルトが捕まってそれなりの時間が経過しましたが……特に続報は入ってきませんね」
「報告書に対する返答とかには記載されるだろうし、それを気長に待てばいいよ」
「そして敵対存在が私達に干渉してくることもない……」
「俺達の扱いをどう考えているのか、だな。それなりに規模の大きい組織であるなら、実力行使で仕掛けてくる可能性もゼロじゃないけど」
そこまで言うとユークは空を見上げた。
「ただ俺達は人通りの多い街道を進んでいる。さすがに俺達をどうにかするにしても、人が多数いる場所ではやらないだろう」
「例えば町から離れた時に見計らって、とかでしょうか?」
「その可能性もあるけど、俺達の動向を理解しているわけではないだろうし、おびき出すみたいなことはしないだろうな」
ユークは幾度となく自分達に監視の目が向けられていないかなどを逐一確認しているのだが、まったく反応はない。
自分の能力に過信しているわけではないため、ユーク自身捉えきれない動きがあるかもしれない、ということは念頭に置いている。だが、オルトと戦って以降、違和感を覚えることすらないため、実際に監視などは皆無だ、と結論を出している。
「俺達は旅を続けているというところがポイントだ。今の状態であれば、誰かから狙われる可能性は低いな」
「もし現状を変えるとしたら……」
「大々的に組織が動いたら、かな。さすがに俺達だけで手に負えるような状況でなくなったら、王城へ迷わず駆け込むべきか」
「ユーク様としては、その展開は望んでいないですか?」
(家出して旅をしたいと思っているからな……)
城に行けば勇者としての義務とか、そういうものを果たさなければならなくなる――今だって魔の気配、などという嘘が真実となってしまって勇者として動いているわけだが、自分の意思と国からの意思とでは、やる気もまったく異なってくる。
「……現時点では、勇者オルトが所属していた組織を含め、わからないことだらけだ。そして王城内に内通者がいる可能性を考慮すると、情報集めには今の立ち位置を確保した方が良いだろう」
「そうですね……あ、ただユーク様。国からの指示で勇者が来た場合はどうしますか?」
「んー、国も事情がわかった上で寄越しているわけだから、たぶん大丈夫かな……もう見た感じ怪しい魔力を漂わせていたら問答無用で逃げるけど」
「判別はつくんですか? 勇者オルトの時はすぐに見抜いたようですが……」
「相手によるな。現役の勇者の実力だってピンキリだろ? 勇者オルトだって相当な実力者だったけど、上には上がいるはずだし……」
そう告げた後、ユークはアンジェの表情を窺いつつ、
「ま、その時の状況なども踏まえて考えるよ。それでいいか?」
「私はユーク様のご判断に従います……ただ、場合によっては私が任を解かれる可能性もありますが」
「そこは……」
ユークは何かを言いかけて、中断する。
「……それについても、話題になったら俺の考えていることを話すよ」
「はい」
アンジェはあっさりと返事をする。どう思っているのかを聞いてくることはなかった。