幕間:勇者と国王
――勇者オルトが引き起こした事件は、王城に大きな衝撃をもたらした。ある者はこれを機に勇者制度の見直しが必要と主張し、またある者は勇者制度よりも現行の勇者達、その身体検査をすべきだと語る者もいた。
勇者達の管理は、国王が直轄管理する『戦士院』という組織が担っている。良い意味でも悪い意味でも他とは違う存在である勇者を騎士などと同じように扱うのは困難。よって、この組織と戦士ギルドとが相互に連絡を取り合い、勇者の現状を把握することになっているのだが――
「現役で活動する勇者達、及び引退した勇者とも確認が取れました」
場所は円卓のある会議室。重臣達が厳しい表情で座る中、視線を一身に受けながら語る女性が一人。青い長髪を三つ編みに束ね、眼鏡を掛けた妙齢の女性である。
「勇者オルトの一件があったことで、彼と関わりがあったのかなど簡単な聞き取りを行いました。もちろん彼と手を組んでいる者が正直に話すことはないでしょうが……」
「何か気付いたか?」
問い掛けたのは国王。その目は、女性に全幅の信頼を置いていることが窺える。
「同じ勇者である君ならば、多少の会話でも察するものはあっただろう?」
「……色々な感情が見え隠れしていました。自分が疑われているのか、とこちらへ疑義を向ける視線、あるいは勇者という存在を貶める裏切り者と、勇者オルトを非難する者。あるいは彼をよく知っていて、なぜこんなことを、と悲嘆に暮れる者も」
「オルトは勇者の中でも精力的に活動していた。勇者に加え、多くの戦士と交流があったはずだ」
国王は顎に手をやりながら語る。
「そうした人間の中に、彼の協力者がいたとしても不思議ではない」
「はい。加え、派遣された聖騎士の報告書によれば、彼は生み出した魔物の状況を確認するために、動き回っていた様子……実働部隊ではあるようですが、おそらく組織の構成員にしろ、組織の長というわけではないし、彼が魔物を生み出したわけでもない」
「組織の幹部は別にいると。彼の実力はこの場にいる者達なら知っているだろう。彼が一構成員となれば、幹部クラスに名を連ねるのは……」
重臣達の表情が重くなる。場合によっては勇者の多くが組織に所属している可能性も――
「陛下、勇者オルトは構成員だとしても、その能力から重要な仕事を託されていたのは間違いないでしょう」
と、青髪の女性は語る。
「魔物の制御権を保有していたとなれば、組織の中枢にいる人物から信頼を得ていたのは間違いありません」
「ふむ、そうか……とはいえ、現状でわかっているのはここまでだ。勇者ユーク……まさか彼が首を突っ込み暴き出したとは」
国王はそう語ると、円卓の隅の方にいる人物――ユークの師であるラギンへ目を向けた。
「ラギン、そちらの言った通りだな」
「はい、魔の気配……これこそユークが感じ取った脅威に違いないでしょう」
「彼は単独で追うつもりか?」
「私達が勇者オルトが所属していた組織に関わりが無い……潔白を証明しない限りは、おそらく」
「どこまでも用心深いが……むしろこの方がいいだろう」
国王はそう告げると、別所へ目を向けた。
「リュード」
「はい」
名を呼ばれたのは、ヒゲを蓄えた精悍な顔つきの男性貴族。
「勇者ユークの従者となったのはそなたの娘だ。報告書は届いているか?」
「……新たな報告書が、本日届きました」
そう言いながらリュードは懐から書状を取り出す。
「まだ封は開いていませんが」
「内容については私が最初に確認する。『戦士院』の長である以上、勇者の報告を一番に知る必要があるのは私だからな」
リュードは頷き、書状を携え国王の下へ。そして報告書を差し出すと、王は受け取り封を切った。
「……ふむ、勇者ユークから見たオルトに関する事件の考察が記されているな。内容は聖騎士が報告したものと同じだが……さらに調査を進めていく中で、必要になるかもしれない物があると」
「勇者の武具ですね」
先読みした青髪の女性が声を上げた。
「敵の力は脅威である以上、当然かと。勇者ユークは勇者オルトの実力などを勘案し対処できたようですが、今後はどうなるかわからない」
「場合によっては勇者ユーク達に組織から刃が差し向けられないとも限らない」
一層室内の空気が重くなる――そうした中で国王は、
「シャンナ、仮に勇者の武具を託す場合でも、まだ彼らは適正を確認したわけではない。武具の選定にも時間が必要だな」
シャンナ――そう呼ばれた青髪の女性は、神妙な顔つきで頷いた。
「はい、ただ勇者の武具以外で彼らの不安を解消する術はあります」
「というと?」
「勇者の武具は厳重に管理され、手にしているのは勇者の中でもごく一部……ただ、それに準ずる力を持つ武器があります。適性を確かめる、という意味合いを含め……まずはそれに関する助言をしてみようかと思います――」




