魔の気配
真正面から迫る勇者オルトとその一行。ただユークとアンジェへ仕掛けるのはオルトと、後方にいた仲間の戦士一人。他は後衛として戦いの行く末を見守る。
そして横にいる聖騎士達がユークを助けるべく走り込んでくる。しかし彼らは援護しようにも結界が存在しており、まずそれを破壊しなければならない。
仮に一瞬で破壊が可能だとしても、オルトとしては少し時間を稼げる――その時間を利用しユーク達を倒す、という腹づもりであるのは間違いない。
勝負はわずかな時間で決まる――この場にいる者達は全員、そう感じたことだろう。どちらが勝利するにしても、数秒後には決まっている。それほどの勢いがこの戦場にはあった。
オルトはユークへ向け突き進み、魔物もまた接近してくる――アンジェはまだ動けていない。これは彼女が恐怖で動けないのではなく、純粋に身体能力の差によって、後れを取っているというのが原因だ。
つまりユークは聖騎士を含め味方の援護に頼ることができない――しかし、その動きに迷いはなかった。
そして大勢は、文字通り一瞬で決まった。それは間違いなく、ユーク以外の者達の予想をことごとく裏切るものであった。
最初にユークへ接近したのは魔物。オルトは一歩遅れる形であり、これは波状攻撃によって畳みかけるつもりだと推測できた。彼からすればユークの実力はわからない。よってまず魔物から攻撃を仕掛け、動きを見てオルトが仕留めようという魂胆だ。
それに対しユークは、魔物へ向け剣を振った。その動作はオルトが剣を放とうと動く速度を遙かに上回っていた。そして当の魔物も――まったく反応できなかった。
次の瞬間、ユークの剣が魔物の首筋へ入り、両断する。凄まじい速度で飛来した魔物の体躯は途端に制御をなくし、直撃すれば岩にぶち当たるくらいのダメージにはなったはずだが――斬撃によって軌道が逸れ、紙一重でユークの背後を通過する。
オルトは――魔物が倒されたのは理解したはずだが、それでも剣を差し向けようとした。それに対しユークはきっちり動きを見極め、彼の剣に一撃入れ弾いた。途端、何が起こったのかわからないという表情をオルトは示し、隙を晒した。
次の瞬間、ユークは左手をかざし魔法を放った。それは白い光弾であり、無防備なオルトの腹部に直撃。彼は呻き声を上げながら勢いをなくし動きを止めた。
次いで彼の後方から戦士が迫り――ユークは剣で放つことで対処した。咄嗟に相手は自身の剣を盾にして防いだが、完全に力負けして戦士は吹き飛んだ。地面から足が離れ、バランスを崩し地面に倒れ込む。
そして続けざまにユークは光弾を放つ。その狙いは残るオルトの仲間達。彼らは完全に虚を衝かれた形となって、ほぼ無抵抗で魔法を受けた。
魔法によってオルトの仲間は全て倒れる。唯一勇者オルトだけは倒れることなくどうにか剣を握り直しユークと対峙したが――大勢は、完全に決した。
「お前……」
ここで聖騎士によって結界が破壊された。その間に呟いたオルトの呟きと同時、ユークの剣が彼の腰を捉えた。剣の刃ではなく腹の部分で体を打ち――出血はしなかったが今のオルトには決定打となったか、再び呻き声を放ちながらとうとう倒れ伏した。
聖騎士がユークの下へ辿り着いた時には全てが終わっていた。視線を向けると驚愕する女性騎士が。
「……まさか、全て一瞬で終わらせてしまうとは」
「向こうの行動を読めたからだよ。手の内さえ把握できれば、奇襲同然の攻撃で対処はできる」
戦闘は終了し、魔物は滅びオルトとその仲間達は全員倒れた。
「あとはお任せしていい?」
「はい……こちらで処理をします」
「これからが大変そうだけど」
「そうですね……勇者の裏切り。しかも様子からしてまだまだそういった勇者がいるのは間違いないでしょう」
苦々しい表情で女性騎士は告げる。
「ここへ来る前にあなたの事情は聞いていますが……魔の気配、勇者オルトと関係していると思いますか?」
「どうだろうね。正直そこはわからない……けど、可能性は十分あると思う」
「対処を誤れば、勇者達全てが敵に回るかもしれない……ですね」
ユークは頭をかきながらも無言。そこについてはわからない――というよりそもそも、
(まさか言い訳が真実になるとは……)
魔の気配、勇者の裏切り――心底厄介だ、とユークは思いながらも自分が関わるべき問題だろうと感じた。
(同じ勇者として……向き合わなければいけない気がする)
「ユーク様」
ここでアンジェの声がした。
「あの、その……」
「……状況についていけなかっただろうし、立ち尽くしたのは仕方がないよ。そもそも、聖騎士さんのことも言っていなかったし」
「それは、知っていると勇者オルトに気付かれる可能性があると考え?」
「アンジェは顔に出るタイプかな、となんとなく感じたから……」
「そこは事実なので、ご判断としては正解だったと思います……もっと、精進します」
反省しきりのアンジェ。それにユークは苦笑しつつ、
「それじゃあ、ここは任せて戻るとしようか――」




