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勇者の旅立ち

 ここからは時間との勝負だ――そう自覚していたユークは山を下り、訪れていた最寄りの町まで到達した。

 さすがに少しくらい余裕があるだろう、ということでユークは町で世話になっていた人物に挨拶へ向かう。雑貨屋を営む男性であり、ユークの顔を見るなり笑顔になった。


「お、久しぶりだな。ここ数ヶ月見ていなかったがどうしていた――」


 口が止まった。理由はユークはいつもの布製の衣服ではなく、旅装姿であったためだろう。


「どうしたんだ?」

「今日はお礼を」

「お礼?」

「諸事情により町を離れることになったので。今までありがとうございました」

「いやいや、別に礼を言われるようなことはしていないぞ。町のことを色々教えた程度だしな……格好からすると傭兵稼業でも始めるのか?」

「一応、そのつもりです」


 ――男性はなぜ、と理由は聞かなかった。代わりに「そうか」と相づちを打ち、


「今後顔を見せるなら、飯くらいはおごってやるぞ」

「ありがとうございます……それじゃあ」


 ユークは端的に告げると、足早に雑貨屋を出た。そして一目散に町を出る。進路は――


「王都には近づかない方がいいな」


 ユークのいる場所から北へ向かえば、ディリウス王国の都へ辿り着く。しかし、そちらへ向かう理由はない。


「それと早々にここから離れた方がいい……とりあえず、東に向かうか」


 国の地図は頭に入っている。どこにどういう町があるのかも全て把握している。よって、ユークは今の自分に何が必要なのかを考え、進路を決断した。


「とにかく、まずは金を貯めないと。旅の準備はできたけど、仕事をする上では色々足らないものがあるからな」


 ――旅をするならどういう仕事をこなしていくべきかユークは考え、最終的に自分が学んできた剣や魔法を使うのが良いだろうと判断していた。けれど今の武装は使い古された鉄製の剣が一本のみ。装備を整えるには、とにかく資金が足らない。手持ちのお金は旅費で消えてしまう。


「まずはこの周辺から大急ぎで離れて、東にある大きな町で仕事を請けよう……顔も名前もまだ知られているわけじゃないけど、注意はしないといけないな」


 そう呟きつつユークは街道を進む。足取りは途轍もなく軽い――とはいえ、はしゃぎすぎるのも目立つしまずいだろうと、自分自身に言い聞かせる。


 家出をするくらいには大胆だが、ユークの性格は至極真面目であった。翁に言われたことをこなすのは別段苦痛でもなかったし、嫌々修行をやっていたわけでもない。だから自分の生活が歪なものであると認識しても「まあ勇者だし仕方がないか」で済まし、ならばどうすればいいのかと未来への思考をした。


 ユークは旅の問題点を考察する。何はともあれ一番の問題は追っ手。間違いなく国は血眼になってユークのことを探すだろう。どれだけの人員が投入されるのか――


「いや、人数については決して多くはないか」


 どうあっても勇者が家出した、などということを国が公にすることはないだろう。かといってユークの置き手紙に書かれた「魔の気配」云々を真に受けるとも思えない。

 追跡する手段があるのかなど不明な点はあるが、国としてはこの事件を解決すべく秘密裏に動くだろうとユークは結論づける。


「大人数に囲まれる可能性より、気付いたら背後にいた、というパターンを想定するべきかな……もっとも注意すべきか夜か。泊まる宿屋とかに簡易的な結界でも張ろうかな?」


 呟きつつユークは頭の中でパッパと魔法を組み立てていく――あらゆる魔法書を読み込んだことで、ユークは魔法の作成すらも容易にできてしまう。

 対策を歩きながら考える中、ユークは今後のことを予想する。学園入学をすっぽかしてしまったので、多少なりとも混乱はあるだろう。しかし、国はこのまずい状況を隠蔽し、ユークを探しだそうとするはずだ。


 勇者とは絶対的な存在であり、また他国に対する抑止力ともなる。ディリウス王国周辺に敵対的な国家というのは存在しないが、それでも勇者――しかも史上最強などと噂された人間がいなくなったとなれば、他国は黙ってみていることはないだろう。


「つまり、この状況を隠そうと動く……はずだけど……」


 仮に公にする場合はどうか。ユークはそういった想定も考慮。ありとあらゆる可能性を検証し、どう動くのが最善なのか考え続ける。


「追っ手から逃げる、ということに全力使うなと国は言うだろうけどな」


 ユークは笑いつつ街道を歩む――そうした中で、追っ手が来た想定をしてみる。


「さすがに首を切るわけにもいかないからな。加減し、一時的に動けなくするくらいが関の山か……なら、そういう技法も開発しておくか」


 訓練はこの世界に存在する人類の脅威――魔物、あるいは魔族と呼ばれる敵対存在を想定している。それを応用し、相手を殺めず加減して倒す。

 これまで得た技術などを利用すれば十分可能――街道を進みながら、ユークはひたすら頭の中で技法を練り上げていくのだった。


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