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対峙する者達

「つまり、こう言いたいのか?」


 剣を構えながら勇者オルトは告げる――それに対し、ユークはまだ剣すら抜いていない状況。


「こんな状況に陥っても、逃げられる算段がついていると」

「そうだと言ったら?」

「逃がすと思うか?」

「試してみる?」


 問い返すユークに対し、オルトは目を細める。


「……結界を張れ」


 即座に後方にいる仲間へ指示を出すオルト。そこで魔術師が杖で地面を叩き、周囲を覆う結界を作り出した。

 ドーム状に形成されたそれは、内側から外へ出られなくするタイプのもの。範囲は大きく、多少距離のある漆黒の魔物も内側に入っている。


「戦う前に一つ聞きたい。なぜわざわざ殺そうとするんだ?」

「……何?」

「これまで雑談を繰り返してきて、俺のことは裏表のない人間に見えていたはずだ。であれば、引き込むという選択肢もあったんじゃないか?」


 その問い掛けにオルトは笑い始めた――まさかユーク自身が言及するとは、と予想外の様子だった。


「そうだな……確かに、その選択もあった。だが残念ながら、不合格だった」

「理由は?」

「純粋すぎるから、だな」


 眉をひそめるユーク。それにオルトは、


「活動目的を説明すれば俺達の色に染まってくれる可能性はあった……が、まだ世界のことを知らない年齢だ。その純朴な考えは、きっと俺達の考えを拒絶すると思ったわけだ」

「なるほど、ね」

「話は終わりか?」

「何をしているのかは、冥土の土産に教えてもらうとかはできないのか?」


 その問い掛けにオルトは笑う。


「残念ながら無理だな」

「あ、そう」

「何だ、あっさりと引き下がったな」

「魔法か何かによる契約で喋ることができない、もしくは喋れば自分が死ぬ、といったところかな?」


 ――ユークが指摘した途端、オルトは沈黙した。


「喋れない、という時点で組織的に活動していることは間違いない。ま、ああいった魔物がディリウス王国内に点在しているとしたら当然か。たぶんあなたの役割は、各地を転戦しつつ魔物がちゃんと発生しているか確認とかしているのかな?」

「……お前、まさか俺達の行動を見てどういうことなのか推測したのか?」

「だからこそ、ここまで来たし感じたことが真実か確かめたかった」


 ここでようやくユークは剣を抜こうとする。するとここで、


「動くな」


 オルトが警告した。


「お前はどうやら、ここで確実に仕留めないとまずそうだ」

「動かないとどうなるの? どちらにせよ、俺を殺すんだろ?」

「動かなければ、お前の後ろにいるお嬢ちゃんは助けてやる」


 その言葉の瞬間、アンジェが息を飲む。


「お前はおそらく、自分の命はどうでもいいとか思っていそうだが、自分のせいで誰かが死ぬのは見過ごせない……そうだろ?」

「その質問は正解、と答えておこうかな」

「なら彼女を助けたくば動くな。動けば……彼女から狙わせてもらおう」


 ――アンジェを狙えばユークは彼女を守ろうとする。それが足かせとなりオルト達が優位になる。


「確認だが、彼女はいいのか?」


 ここでユークはさらにオルトへ質問した。


「アンジェを逃がせば、あなた達の悪行が世間に広まるぞ?」

「そうはならない……勇者の証を持つ彼女の言動を信じる者はいるだろう。しかし、政治的な意味合いであればお嬢ちゃんの発言なんて、あっさりと消せる」

「例え彼女の発言が国の上層部へ届くとしても?」

「それがどうした?」

「――言動から察するに、上層部にもあなた達に手を貸す人間がいるみたいだな」


 オルトは再び沈黙する。それは間違いなく肯定の意を示している。


「……これ以上問答をしない方がよさそうだ」


 オルトは殺気を発する。同時に彼の後方にいる仲間達も、魔力を高めた。


「お嬢ちゃんの発言力が低いとしても、これ以上ボロを出せばどうなるかわからない」

「そうだね……俺達がどうなっても、誰の目もなければ誤魔化せると考えているわけだ」


 オルトが一歩にじり寄る。そんな様子を見てもユークはなおも動かない。


「ふむ、もうそろそろ無理そうかな……なら最後の一つ質問だ。もしかしてその組織、勇者が複数所属しているとか、そういう感じの組織だったりする?」


 オルトは何も反応しない――が、ユークはなおも告げる。


「あなたはどうやら、勇者制度……現在の勇者の立ち位置などに不満を持っている様子だった。とはいえ、魔物を生み出して何をするのか……例えばああいう魔物を作り、勇者自身に討伐させることによって、地位向上を図る……ただ、それだけにしてはリスクとリターンが見合わないような気がする。他に何かあるのか?」


 オルトが迫ろうと前傾姿勢となる。それと共に魔物もまた動こうとする。


「魔物はあなたの指示を待っているのか……いや、多少命令を聞くくらいか」


 その時、オルトの目の光が変わる。そこでユークは一度声を止め、


「ま、このくらいでいいかな……というわけで、出てきていいですよ」


 言葉の瞬間、オルトが眉をひそめ――同時、ユーク達の横に気配が生まれた。


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