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国のため、人のため

 勇者オルトと顔を合わせ、そこから数日ユークとアンジェは仕事に勤しんだ。戦士ギルドで依頼を請け、ひたすら資金を稼いでいく。

 アンジェは連絡が本当に来るのかと首を傾げていたが、四日後――ユーク達が泊まっている宿にオルトから連絡が来た。


『一つ思い出したことがある。話がしたい』


 そういうメモを受け取り、ユーク達は再びオルトがいる宿へ赴く。


「ようこそ……お茶でも用意すべきだったか?」

「いえ、大丈夫です」


 ユークはそう応じつつ、早速本題へ入る。


「それで、思い出したこととは?」

「二ヶ月ほど前だったか、国からの要請で魔物討伐をしていた際、異様な気配を持つ魔物と遭遇したことがあった。ユーク君と最初話した際に思い出すことはなかったが、改めて考え直すと君が語った魔物と特徴が一致していたように感じる」

「その場所は?」

「ここから東にあるピュリヤ山脈だ」


 それなりに距離がある。ディリウス王国内でも有数の標高を持つ山があり、人がおいそれと踏み入れることが難しい険しい山岳地帯である。


「ただ見たのは一度だけだ」

「その時、魔物はどうしたんですか?」

「攻撃するか迷っていたところ、魔物はあっさりと姿を消した。索敵魔法で色々探ってみたが、結局見つけることはできなかった」

「人間と出会って気配を消した、と?」

「いくら魔物が気配を殺していても俺なら気付くと思うんだがな……ただ、もしこちらの目を欺いたとしたら、話は大きく変わってくる」


 ユークは勇者オルトの言葉に頷いた。


「はい、非常に危険ですね」

「その魔物については、戦士ギルドで調べても情報一つなかった。俺と君が遭遇した魔物は同一的な個体なのかはわからないが……少なくとも、まだ人の目にほとんど触れられていないんだろう」


 ここで勇者オルトはユークへ提案する。


「そこで、だ。一緒にピュリヤ山脈へ赴き魔物討伐をしないか?」

「一緒に、ですか」

「そうだ。ただし、これは国の依頼……その範疇を超えている案件だ。よってタダ働きになるわけだが……俺としても、勇者が脅威を見なした魔物を放置する、というのはどうにも引っ掛かる」


 ユークは黙って勇者オルトを見据える。国のため、人のため――オルトは自ら動こうとしている風に聞こえるが、


「国の庇護下である勇者は当然、滅私奉公すべきなんて考えを持つ人間もいるが、俺はそう思わない。仕事には相応の報酬が必要だ。で、君達は国の上層部と連絡を取り合える手段を持っている」

「自分達を帯同させることで仕事を果たし、報酬をもらおうと考えている」

「その通りだ」

「わかりました……アンジェ、仕事が終わった後に報告書で勇者オルト様のことを記してくれ」

「はい」


 ユーク達のやりとりを聞いて勇者オルトは満足げな表情を浮かべる。


「ただしオルト様、報酬の支払いについては問題ないにしても、いつ支払われるかはわからないですよ」

「そこは気長に待つから問題ないさ……というわけで、一緒に仕事をやってくれるか?」

「わかりました」

「ちなみにそちらはただ働きになるのか?」

「いえ、こちらはこちらで請求しようと思いますので」

「そうかそうか……出発は三日後くらいを予定している。それでいいか?」

「はい、わかりました。あ、道中の旅費とかは――」

「ああ、そこは心配するな。こちらで用意させてもらうぞ」


 陽気にオルトは告げる。ユークは了承し、宿を出ることとなった。






「というわけで、早速準備をしようか」


 宿の外へ出てユークは告げる。


「抱えている仕事はあったが、どれも三日後までには終わらせられる。それらを片付けたら旅の準備をして、勇者オルトと共に目的地へ向かう、だな」

「目標としている金額までは遠いですし、どこまで装備が整えられるか……」

「そこは上手いことやらないといけないな。ま、今回は他に勇者がいることだし、なんとかなるさ」

「そうですね、オルト様の実力はディリウス王国でも評判ですし……」


 そうは言うものの、アンジェとしてはどこか不安がある様子。


「ただ、あの魔物……その力は――」

「不安?」

「どう、でしょう。今の私が対抗できる存在でないのは明白ですし……ユーク様はどうお考えですか?」

「こっちでも可能な限り対策を立てておく、くらいかな……ま、そう心配はいらないよ。俺自身、色々と考えている」

「対抗策を、ですか?」

「それに関しては仕事の最中にでも説明するとして……と、そうだ。アンジェ、一つ頼みたいことがある」

「何でしょうか?」

「アンジェが報告書を渡す経路で、手紙を届けて欲しい」


 その言葉を受け、アンジェは一考する。


「……同じルートなら、最初に届くのは私の家ですが」

「ああ、それは問題ない。そこから城には届くだろ?」

「ええまあ、はい」


 返事にユークはニヤリとする。


「今回の手紙は早く届けてもらうようにする……それで、対策の一つは完璧になるよ――」


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