ある勇者の行く末
勇者ユークは組織にまつわる事件を解決した後も、精力的に活動した。
その中で勇者ルヴェルを初めとした多数の勇者とも交流し、やがてユークの名は同業者だけではなく多数の人々の間で知られていくことになる。
知名度に応じて、ユークが成した功績も広まっていった。彼は『混沌の主』の力を宿す存在と戦い、勝った――そこまで知れ渡った時、ユークの名はディリウス王国内で限界まで広まった。彼こそ、神話に登場する勇者そのものであると吹聴する者もいた。
結果、ユークはさらに王都には近づかないようにした。皮肉な話ではあるが、噂が噂を呼びその力が語られることで政治的に利用される可能性が高まってしまった。よってユークとしては下手に王都に足を踏み入れない方がいいという判断だった。
そうしてユークはアンジェと共に旅を続け、組織が残した魔物を倒していく。中には別の裏組織が利用しようと動いていたケースがあったり、あるいは組織が残した資料をかすめ取り、技術開発をしていたケースもあった。
ユークが抱いていた懸念は見事当てはまり、結果としてユークは『混沌の主』に関する技術を全て破壊するために旅を続けた――それを通してルヴェルやシャンナとも幾度となく顔を合わせ、やがてユークと同世代の勇者達も活動を始め、台頭していく。
そんな旅の期間は――五年ほどで一区切りがついた。どこにあるかもわからない組織や残された魔物を倒すには、それこそ十年単位の時間が掛かるかもしれないとユークも考えていた。しかし結果から言えば王都における騒動で開発した索敵魔法などによって魔物の居所などが明瞭となり、討伐を容易にすることができた。
そうして戦い続け、やがて一休みできるような状況となった時――ば最終的に王都に押し込まれた。こうした表現になったのは勇者シャンナやルヴェルの差し金で王都入りしたためだ。
「仕事の関係で王都にいて、そこで落ち合いたい」
そんな口上で言われれば、さすがにユークも頷くほかない――そしてユークとアンジェはとうとう旅を中断した。ただ、ユーク自身はタイミングとしては良いか、などと思ったりもした。
王都内、及び王城内もかなり様変わりしており、ユークを政争の具にはしないという方針もあって、ユーク自身が何か騒動に巻き込まれることはなかった。一方でアンジェの方は色々と大変だったらしいが、ユークはその詳細を聞くことはなかった。
代わりに、アンジェの親族から「彼女と結婚してくれ」などと言われたりした。ユークは五年も従者として彼女の人生を振り回していたのだから、責任を取るのは当然だろとばかりに受け入れようとしたのだが、当のアンジェは「考えさせて欲しい」と親族の強引な薦めもひとまずかわした。
ユーク達が将来どうなるかはまだ判然としないが――少なくとも、人生において良好な関係にはなっていくだろう。そんな風にユークは思いつつ、剣を置いて王都内で活動を開始することとなった。
――そこからの出来事は、特段語ることは少ない。ユークは以降、王都から出ることはあっても騎士などと随伴する活動であり、勇者として動く時も国の支援があってのことであった。最終的に勇者シャンナのように戦士院に入ることになるだろうと誰もが思っていたし、ユーク自身もそれはそれでいいか、と考えた。
史上最強勇者として『混沌の主』の力を持つ敵を倒した、という劇的な話からスタートした勇者ユークの活躍だが、年数が経過したことで評価も落ち着いたものとなり、人々の噂に上ることも少なくなった。けれど史上最強は誰だ、と問われ名前が上がり続けているのは確か。ユーク自身、鍛錬を欠かした日はないし、『混沌の主』の力を宿した組織との戦いと比べても能力は上がっている。
とはいえ、目立つことはなく――これでいい、とユークは思った。勇者として名を残すことが目的ではない。そもそも最初は家出だった。そんな始まりである以上は、歴史に名を刻むなんておこがましいとさえ考えていた。
「――そんな風に思っていたとしても」
しかし、ユークの周りにいる人は――特に、共に戦い続けてくれたアンジェは、そう思っていないようだった。
ある時、正式に婚約の話をする際にユークはアンジェの家を訪れた。そこでこれ以上にないくらいドレスが似合う姿に成長した彼女に話をした際、そう述べた。
「ユーク様は、国を救い世界を救った方ですから」
例え世界が敵に回ろうとも、自分だけは味方で居続ける――そんな心境さえも感じ取ることができた。
そしてユークは彼女の言葉に「ありがとう」と礼を言った。それから一ヶ月後に二人は多数の貴族や勇者から祝福を受ける。
史上最強勇者の物語は、一区切りつく――しかし勇者としての志を変えることはなく、勇者ユークはこれからも戦い続ける。
完結となります。お読みいただきありがとうございました。




