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史上最強勇者、家出する  作者: 陽山純樹
第三章

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199/200

新たな一日

 最初に体勢を崩したのはアンジェ。さすがにユークの剣戟を受け続けるのは至難だったか、一歩退いた。

 それに対しユークは前に出る。次いで放った剣には相当な魔力が込められ、アンジェはそれを受けたがやはり体勢がぐらついた。


 ユークはさらに追撃を決めるが、そこからアンジェは崩れなかった――あともう一押しが続かない。ギリギリの所で踏みとどまり、決着がつかない。

 ユークは耐える彼女の姿を見て、内心で驚愕しながらも凄まじい修練をこなしたのだと理解する。以前のアンジェであれば、ここまでユークと対等に戦うことはできなかったはずである。


(これが、彼女の決意か……)


 ユークは確かに受け取ったと思いながら、剣を振るう。アンジェはどうにか踏みとどまっていたが、体勢が不安定な中でさすがに限界が来る。さらなる追撃に彼女の体が大きく傾き、結果として大きく後退した。

 そこでユークはさらなる追撃を仕掛ける選択肢もあったが、立ち止まった。アンジェの目にはまだ何か意思があった。深入りすると思わぬ反撃が来るかもしれない、という判断だった。


 それに対しアンジェは呼吸を整え、剣を構え直す。既に彼女自身は疲労もあるようで、肩で息をしている。このまま戦い続ければ先に限界を向かえるのは彼女であり、長期戦に舵を切ることも選択の一つではあった。


(けど……)


 ユークは心の中で呟くと共に、剣に魔力を注いだ。


「今度は、耐えきれるか?」

「……全力を尽くします」


 アンジェの返答と共に、ユークは動く。一瞬で間合いを詰め、アンジェが反応し始めたタイミングで剣戟を繰り出した。

 その攻撃は、まさしく『混沌の主』へ挑んでいるかのような勢いだった。結果、アンジェは剣を受けたがさすがに耐えきれずに彼女が持つ剣が大きく弾き飛ばされた。剣が宙を舞い、彼女は地面に尻餅をついた。


 そしてユークは彼女へ向け剣を突きつける。勝負はついた。


「……私の負けですね」

「ああ……強かったよ、アンジェ」


 その言葉に満足したのか、アンジェは立ち上がった後に綺麗な微笑を浮かべた。


「ありがとうございます……その、私はユーク様の従者にふさわしい力を得たでしょうか?」

「元々の実力だって十分だと思うけど……」

「しかし、関わった事件で思うように戦うことはできませんでした。今なら、前よりも戦えると自負していますが……」

「これからもっと、強くなればいいさ」


 ユークの言葉にアンジェは目を瞬かせる。


「旅をする中で修行をすればいい……俺も手を貸す」

「……そうですね。あの、ユーク様」

「ん、何?」

「どこまでお役に立てるかはわかりませんが……全力は尽くします。今後もよろしくお願いします」

「それはこっちのセリフだよ。よろしくお願いするよ、アンジェ」


 やりとりをした直後、ユーク達は互いに笑う。


「さて、決闘も終わったことだし旅を始めよう……ただ、アンジェは大丈夫か?」

「問題ありません。ひとまず昼までに一度町まで辿り着きたいですね。それでユーク様、進路はどちらに?」

「まずはシアラに会いに行こうかな」

「わかりました。それでしたらルートは――」


 話をする間にもユーク達は剣を収め、並んで歩きながら決闘の場を後にする。そして街道に出て少し歩いていると、いよいよ日が昇った。


「……新たな一日ですね」


 アンジェが呟くと、ユークは首肯しつつ、


「そして俺達の旅の始まりでもある」

「ユーク様がいなくなることで、色々と騒動が起こりそうですけど……」

「またいなくなったのかと驚愕することだろう。でもまあ、アンジェを派遣したみたいなことにはならないと思うよ」

「以前と同じように報告はいるでしょうか?」

「特に必要ないと思うけどな……ま、手紙くらいは送ってもいいと思うよ」

「そうですね……いつか町に立ち寄った際にでも書こうと思います」

「……アンジェの父君については、大丈夫かな?」

「わかりません。私がこうしてユーク様と一緒に旅をするのも言っていませんし、もしかしたら戻ってこいと諭されるかもしれません」

「その場合は帰らなくていいよ。もちろんアンジェが帰りたいと願うのなら、止めはしないけど」

「ひとまず、帰るつもりはありません……が、心境が変わったのであれば言いますね」

「うん」


 ユーク達が街道を進む間に、日の出前から出発し王都へ向かう商人などとすれ違う。そうした光景を見た後、ユークは一度王都のある方角へ目を向けた。


「ユーク様、どうしましたか?」

「いや……お世話になった人とかに置き手紙だけ残した状態だからな……ま、アンジェと同じように手紙を送ることにするよ。さて、とにかく進もう」

「はい……あ、今後も勇者の方々と交流していきますか?」

「そうだな。組織が残した魔物について調べるのであれば、同業者に聞くのが一番だ。同時に、手を貸してくれる人も探したいな。ルヴェルさんとかが近くにいたら手伝ってくれるとは思うけど、そういう人を増やしたい」

「仲間集めですか」

「俺らにとって、一番大変かもしれないけどね」


 ユークはアンジェへ返答しつつ前を向いて歩く。二人は登り続ける太陽へ向かうように、街道を進み続けた――


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