作戦完遂
「――皆さん!」
ユークとルヴェルが最後の剣を決めた直後、部屋の入口から作戦指揮を執っていた勇者シャンナが駆け込んできた。
そして滅びゆくサーシャの姿を目に留める。何を言うか――ユークは言葉を待つ構えだったが、消えていく光景を見た後、穏やかな声で言った。
「皆さん、お疲れ様でした。それと、来るのが遅れて申し訳ありません」
「大丈夫さ」
と、ルヴェルが言う。
「シャンナだって指揮するの、大変だっただろうからな。最前線は俺達の仕事さ」
「そう言ってもらえるとありがたいです……組織幹部は捕まえました。肝心の長については滅んだという結果になりましたが」
「ま、こいつは自分が望む形で力を手にして暴れたんだ。仕方のない話さ」
「そうですね……ひとまず、皆さん外へ出ましょう」
シャンナの言葉に従い、ルヴェルやその仲間、アンジェは広間から出て行く。その中でユークはシャンナに近寄り、
「……大丈夫?」
「ええ、こういう結末に至ることも覚悟していましたから」
シャンナは笑う。ユークを安心させようとする意図のあるもの。
彼女自身、何も思わないはずがない――しかし、それでも職務を全うするために、動き続ける。
「平和は保たれたんです。喜びましょう」
「……そうだね」
会話はそれで終わった。ユークもこれ以上話題に出すことはなかった。
シャンナは歩き出す。彼女にとって悲劇的な結末のはずだが、それでも真っ直ぐ前を向く――その意思はしかと伝わってきたため、何かを言うことは野暮だった。
ならば、口には出さない――ユークは心の中で決め、シャンナの後を追った。
そうして組織の長が潰え、組織幹部が捕まり、ディリウス王国を騒がせた事件は終わりを告げた。国は正式に組織が壊滅したことやその顛末を伝え、大事件に発展する前に対処することができたとして、多くの人々は安堵した。
ただ、火種がないわけではない。今回の騒動で国の中枢にいる人物もまた、捕まる形となった。それによって政治的に混乱も生じている。ただユークとしてはやれることもないため、後は国に頑張ってもらうしかなかった。
「――とりあえず、勇者達は平穏だな」
作戦が完遂した五日後、ルヴェルはデュラの屋敷を訪れてユークと客室で顔を合わせる。ユークの方は戦いの後、索敵をしつつ基本おとなしくしていたのだが、ルヴェルの方は色々と動き回っていた様子。
「組織が『混沌の主』に関する技術を活用していたという時点で組織と手を結んでいた勇者は距離を置いたはず。ま、何かしら関与した証拠が出れば捕まるかもしれないが、組織そのものが綺麗さっぱりなくなっているし、悪さをする可能性はないだろ」
「そうだね……政治を司る人の中にも組織に与していた人がいたから王城の中は混乱しているみたいだけど、勇者の方は平気そうだね」
「今回の件にかこつけて勇者制度云々、と言い出している人間もいるにはいるが……結果として『混沌の主』がいたことが現実に実証された形となるから、当面この制度は維持されるだろうな」
「似たような組織が出てこないとも限らないから?」
「ああ。組織の人間は捕まえたし、保有した技術も没収したのは間違いないが、この組織と手を組んでいた犯罪組織だっているはずだ。そういう奴らからしてみたら、『混沌の主』の力である以上、危険ではあるが恐ろしい力であるため、魅力的に映るはずだ」
「今後国は、そういう存在がいないかを調べていく必要がある、と」
「そうだな……ま、そんな組織が暴れ出すのは本当に何年も後……あるいは何十年と後になるだろうから、俺達の仕事は終わったと考えていいだろ」
肩の荷が下りた、という風にルヴェルは笑いながら語る。
「君の方もようやく腰を落ち着けることができるな。組織が存続していることを理解していた以上、動きっぱなしだっただろ?」
「まあね。でも、密かに色々動いていたことは、苦にならなかったよ」
「そうか? ま、俺達によって成し遂げた平和だ。今はゆっくり休めばいいさ」
その言葉を聞いた後、ルヴェルは話を変える。
「君の方は索敵魔法とか使っていただろ? 王都周辺に残党みたいな魔物がいるか確認できたか?」
「ひとまず人型らしき魔物はいないよ。ただ、調べたのはあくまで王都周辺だけ。山奥とかはどうかわからない」
「組織の長が持つ『混沌の力』が消えたらそういった魔物も消える……とはならないか」
「そうはならないと思うよ」
「……それを倒しに行く気か?」
ルヴェルは問う。それはユークの心情を察したものというわけではなく、単純な疑問のようだった。
ユークはそれに肩をすくめた。どちらともとれる反応ではあったが、ルヴェルはそれ以上尋ねることをしなかった。
「……君は、これからどうする?」
そして改めて問う。ユークは一拍間を置いた後、ルヴェルへ向け口を開いた。




