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史上最強勇者、家出する  作者: 陽山純樹
第三章

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決着へと――

 ユークが駆けると同時、ルヴェルを始め広間に残る者達は全員動き出した。それはユークを全力で援護するための動きであり、一方のサーシャは警戒感を高めた。


『なるほど、滅ぼす力があることを示し、こちらの動きを制限するつもりですか』


 彼女は動じた様子を見せることなく、挑み掛かるユークの剣戟をまずは剣で防いだ。直後、ユークの剣戟がさらに繰り出される。それは剣を放つごとに速度が増していくものであり、剣術を体得しているサーシャも咄嗟に対応できない速さに変化していく――


『ちっ!』


 舌打ちと共にサーシャは一歩後退。そこへユークが追撃の剣戟を放ち、体に当たった。

 その攻撃は再びサーシャの体に傷を付ける。しかし動きが変わるといった様子はない。そもそも斬られて痛覚があるのかもわからない。


 だが、斬られたという感触だけはあるようで、サーシャの動きが止まる。


「……そちらは騎士の剣を体得し、圧倒的な力によって蹂躙できると考えた」


 ユークは対峙するサーシャへ言う。


「騎士の剣術は非常に優秀だ。俺も騎士と一緒に訓練に励んでいたけど、勉強になることも多かった。ただそれは、騎士が剣術を学んだことに加え、自分の力で技術を発展していくからこそのものだ」


 ユークは剣を強く握る。そして魔力を高めていく。


「あなたは教本通りの動きしかできないが、『混沌の主』の力を用いれば脅威になる。しかし、技術としては中途半端もいいところだ」

『……技術を得ただけでは足りないというわけですか』

「その通りだ」

「ま、正しい解釈だな」


 と、ルヴェルはユーク達に割って入るように口を開いた。


「騎士の剣術は優秀であるため、その技術を活用すれば完璧になると考えたんだろ。しかし、剣術は積み重ねた経験などもあってこそ。あんたの剣は上っ面だけコピーしたものでしかない、というわけだ」

『私の体に傷一つつけられない勇者がよく言いますね』

「確かにこれまではどうにもならなかった……が、今度は違うぞ」


 ルヴェルもまた魔力を高める。その雰囲気は、先ほどとは明らかに違っていた。


「現役勇者の最強格、などという看板を一応は背負っているからな。やられっぱなしは癪だ。そろそろ俺も参加させてもらうぜ」

『ふん、あなたは――』


 サーシャが何かを言い切る前にルヴェルは動いた。文字通り最短距離で間合いを詰めて一閃された剣は、サーシャが動くよりも先に届いていた。

 刹那、ルヴェルの剣がサーシャの体を抉り、わずかながら傷を付ける――その瞬間、サーシャが怒気を発した。


『調子に乗るな……!』

「別に乗っていないさ。ただ、戦いの中で理解しただけだ……ユークの剣を」

「決めよう、ルヴェルさん」

「ああ」


 返答と共にルヴェルはサーシャへ仕掛ける。ユークもまた間合いを詰め、その一方で彼女は、


『っ……!』


 動揺した。それによって動きが鈍り――ユーク達の猛攻が始まる。

 それは、いかに強大な力を持っていようとも抗えない高速の剣。凄まじい速度でサーシャの体に傷がついていき、苛立った彼女が剣を振るが、それは全て空を切る。


 ルヴェルの仲間やアンジェはサーシャの動きを制限するべく取り囲む形をとる。そして彼女が脱しようとするのを見計らって魔法などで牽制を行う。

 先ほどまで圧倒的な力によって攻撃が通じなかったわけだが、ユーク達の攻撃が届くことを理解したことで、包囲するルヴェルの仲間やアンジェに対してサーシャは間合いを詰めなかった――もしかすると、彼らも自分を傷つける何かを持っているかもしれない。その考えが、彼女の動きを止めた。


 そして、ユークとルヴェルの剣がなおも注がれる――強大な力を持つ『混沌の主』の従者、サーシャ。その体躯が、二人の斬撃によってとうとう崩れ落ち始める。


『そんな、馬鹿な……』

「敗因は明瞭だ」


 剣を振りながらルヴェルはサーシャへ告げる。


「力に過信、盲信したこと……どれほど強大な力であっても、それを操る存在が大した力しか持たない人間であるなら、状況は変わってくる。魔物の実験によって『混沌の主』に関して力を引き出す手段を実験する前に、自分が強くなっておく必要があったな」

『――ああ、そういうことですか』


 その時、サーシャはどこか穏やかな声を放った。


『私は、主の力を盲信するばかりに、自分の研鑽を怠った……私自身が、力を得るに至らない存在であったと――』


 言い終えぬ内だった。ユークとルヴェルの剣が交差し、サーシャの体に入る。

 その斬撃が決定打となった。サーシャの体がとうとう砕け、魔力を霧散していく――国を崩壊させようとした組織の長。古の存在を復活させようとした野望は、彼女自身の体と共に、砕け散った。


『主が、消える――』


 その言葉を残し、サーシャは塵となり、この世から消え失せた。


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