地下の戦い
来る、とユークが察した瞬間には漆黒の魔物が視界に入った。恐るべき速度で進行するその魔物に、周囲にいた騎士達がざわつく。
そして、彼らの声が止まない内にユークは漆黒の魔物と激突する。魔物が放った剣をユークは真正面から受け、それを押し返す。
「さすがだな!」
ルヴェルが声を上げながら魔物の横へ回りその首を刎ねた。漆黒の魔物は動きを止め、あっさりと霧散する。
「集団戦だ。別に俺がトドメを刺したって構わないだろ?」
「一騎打ちをするつもりはないよ。その方が助かる」
「この勢いで制圧したいところだが……と、お出ましか」
またも漆黒の気配。さらに紅の魔物の姿も散見され、商館地下が魔物の巣窟になっているのだと認識させられる。
「魔力を遮断しているからこそできる所業だな。ここがバレてもどうにかなるよう魔物を準備していたのはさすが、といったところか」
「用心深いってことなんだろうね」
ユークは応じつつ迫る漆黒の魔物に視線を定める。強襲する魔物にしっかりと応じ、今度は先ほどとは異なり魔物が放った刃を受け流し、切り返しの斬撃で首を斬った。
「はあっ!」
そしてルヴェルは別の個体と交戦し、ユークと同様に斬撃を受け流して撃破する――漆黒の能力は恐ろしいが、ユーク達ならば応じることが出来る。というより、これまで交戦した経験から、対処できた。
さらに言えば、通路が直線的で漆黒の魔物の動きが限定される点も瞬殺できる理由となっていた。いかに恐ろしい速度で動けるとしてもその軌道がわかりやすければ対応できる――もっともこれは、漆黒の動きをしっかりと捉えることができる、という前提の話ではあるが。
「気配を探る限り、まだ漆黒の魔物はいるみたいだな」
ルヴェルは通路奥を凝視しながら言及する。
「地下の構造はわかっているし、目的の場所まで踏み込むまでに幾度か戦闘する必要がありそうだ」
「そうだね。でも、純白の魔物はいないみたいだ」
「わかるのか?」
「なんとなくだけど……ここは地下だ。大規模な魔法を繰り出す純白は、下手すれば自分達が生き埋めになる危険性もあるし、配置しなかったんだろうね」
魔力を遮断する素材で作られている地下であっても、魔法を見境なく放てば問題になる。場合によっては建物自体が損傷、果ては崩壊する危険性を踏まえいないと考えてよさそうだった。
「他には青の魔物がいるかどうかだね」
「際限なく魔物を生み出せば地下室内が無茶苦茶になりそうだし、いても数体くらいだろ……で、ここまで交戦した段階で魔物が増えている様子はない」
「いない、と考えてもいいのかな」
会話をする間に騎士達は地下室内に存在する部屋を調べていく。地下施設における最奥に円卓の会議室があり、そこに組織の構成員はいるはずだが、他の場所に潜んでいる可能性もある。
「どうせ相手は逃げられないから、ゆっくり調べればいいんだが……魔物との交戦は俺達の役目かな」
ルヴェルが呟く間に通路奥からさらなる気配。しかし漆黒ではない。
「俺達を牽制するような意味合いがあるみたいだな」
「侵入されたことは既に気付いているだろうし、後は敵の動き方を見ながら進んでいくことになるだろうね」
ユークはルヴェルに応じつつ気配を探る。それと共にアンジェへ目を向けた。
「大丈夫?」
「はい、問題ありません」
漆黒の魔物を間近に見ても一切動揺は見受けられない。これなら大丈夫だとユークは思いつつ、
「何か些細なことでもいい。気付いたらすぐに言ってくれ」
「はい、わかりました」
「ルヴェルさん、このまま下へ向かう?」
「そうだな。調査は騎士に任せ、魔物を倒していくのがいいだろ。地下施設内の規模はそれなりに広いが、さすがに魔物を配置させておく数には限界もある。どれだけの個体数いるかはわからないが、俺達ならそう時間も掛からず殲滅できる……残る問題は、組織連中がどこまで抵抗するか」
一番の懸念は組織の長。シャンナの姉がどういった抵抗をするか。
「最悪『混沌の主』にまつわる何かと戦うと考えていいだろう……覚悟はしておいた方がよさそうだな」
「戦うよりも退却した方がいいかもしれないけど、ここは王都内だ。被害拡大を防ぐなら、戦うしかないか」
「そういうことだ」
ルヴェルの声が硬質なものになる。彼は予感しているのだろう――おそらく『混沌の主』の力と戦うことになると。
それはユークも同様であり、アンジェも予感があるのか表情を引き締めていた。
――ユーク達が会話をする間にも騎士達は調査を進める。やがてフロア全体を調べ終わり、ユーク達は奥にある階段から下へ進むことに。
そして階段を下り始めた段階で魔物の気配。ユーク達は剣を握りしめ、階下へと到達。魔物を視線で捉えた――




