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未来と報酬

 ユークはアンジェの屋敷を訪れる。出迎えは侍女で、現在家主はいないとの報告を受けた。それでもあっさり通されたが――屋敷内では忙しなく動く人が多く、どうやら多少なりとも混乱しているようだった。


「その、お父様がお城へ連れて行かれまして……」

「組織関連だな」


 庭園でお茶を飲みながらユークはアンジェと話をする。以前のような監視の目については気配そのものがなく、何を話しても問題ないだろうと断じる。


「アンジェの父君が直接的に関わっていた、というわけではなく組織に関わっていた重臣と親しかったから、というのが原因だろうから組織と関わりがないことが証明されれば、問題なく戻ってくると思うよ」

「だといいのですが……」


 そう呟くアンジェの表情は暗い。


「……ユーク様」

「うん」

「私は……私がユーク様の下へ行ったのは、国の方々による判断でした」

「そうだね」

「それはユーク様のことを警戒し、監視を付けようという思惑だったのでしょうか……」

「正直、そこまで深くは考えていなかったと思うよ」


 ユークはそう述べるとアンジェの目を見て話す。


「少年で、勇者として好き勝手に行動する俺に対して……評判はあっただろうから、まあ何をするのか見てやろう、くらいの気だったんだと思う。それに、俺に従者を付けるということで王様に対し心象もよくなるだろうし、ね」

「そう、ですね」

「そこから先は……俺自身もよくわかっていなかったことを考えると、色々な偶然が重なってこんな風になったんだと思う。アンジェの父君も予想外だっただろうし、結果的にアンジェの存在についても、重要視されるようになった」

「……私は」

「ただ」


 そこでユークはアンジェへ向け、告げる。


「俺はどういう形であれ、アンジェと共に旅ができて良かったと思ってるよ」

「ユーク様……」

「大人達がどんな思惑を抱いていようとも……そこだけは変わらない」


 そう述べた時、ユークは苦笑した。


「だからまあ、今から真実を話すんだけど」

「え……?」

「これを聞いた上で、アンジェに決めて欲しい。次の戦い、おそらく最終決戦だ。俺一人でも戦うつもりだけど……アンジェが来てくれると嬉しい。ただ、俺の方もまだ言っていないことがある。信頼関係が重要だろうから、共に戦うなら言っておかないといけない」

「わかりました」


 どんな言葉でも聞き入るという構えのアンジェ。ただ、そんな態度にユークは苦笑しつつ、彼女へ向け家出のことを伝えた。






 ――そしてユークはデュラの屋敷へと戻ってくる。家主であるデュラから「勇者シャンナの使いが来ていた」という話を聞き、手紙を受け取った。

 ユークは自分の部屋でそれを確認する。内容は組織幹部が思った以上に早く集結していること。決戦の日は近いであろうことが記されていた。


「後は、次の戦いで決着がつくのを祈るばかりだな」


 そう呟くと同時に、勝たなければいけないと内心で断じる。


「もしかすると組織を放置すれば『混沌の主』が蘇る、なんてことになるかもしれない」


 というより、シャンナの姉がそれを目的としている可能性が高い――『混沌の主』に関する情報を公にした途端、組織の構成員も動揺し始めたことを考えるとこの情報は間違いなくトップシークレットだった。

 構成員の大半は、魔物を生成する技術として利用価値を見いだし組織に参画していたが、実際は『混沌の主』の技術を用い、下手すると復活させようとしていた。


「この段階で止められて良かったと思うけど……いや、まだだ。シャンナさんの姉を捕まえない限りは、終わらないか」


 ただ、と疑問を抱く。なぜ彼女は『混沌の主』の力を利用しようと考えたのか。


「もしかして、力に魅入られて、とか? だとしても、無茶苦茶だけど……」


 呟きながらユークは手紙を引き出しにしまう。そう遠くない内に決戦の日は来る。


「アンジェについては……答えはまだ聞いていないけど……」


 ユークは事情を説明し、決戦に参加するかは答えを聞かず屋敷を去った。考える時間は間違いなく必要であり、だからこそあの場で答えを求めようともしなかった。

 どういう形になったとしても、ユークは構わないと思った。アンジェに全てを伝えた時、彼女は淡々とその事実を受け入れた。表情から心情は読み取れなかったし、ユークも心の内を探ろうとは思わなかった。


 ただ、とユークは思う。叶うのであれば――


「いや、ここはアンジェの決めることだ……そして」


 もしこの戦いが終わったら――決戦前に考えるのは良くないかもしれないが、全てを話した以上はアンジェも未来を選択する権利がある。


「未来……か」


 ユークは呟きながら自分はどうするのか考える。ただ、一つ答えは見いだしていた。問題はその答えが、国にとって望ましいものかわからない。


「ま、それでも俺は決めた……戦いに勝利したら、報酬としてもらっても、構わないよな?」


 そう声を発しながら、ユークの顔には悪戯をする子供のような笑みが浮かんでいた。


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