街道の戦い
駆けつけた騎士達は、王都からのものではなく森の近くにある駐屯地からのもの――魔物が出現した一方を聞きつけて急行した一団らしい。
ユークやルヴェルが何か声を発するより先に騎士が金色の魔物へ挑み掛かった。騎乗した状態での斬撃は魔物へと入ったのだが――硬かったか騎士の刃は弾かれた。
「騎士の剣は、元々魔力が伴った物だ」
と、ルヴェルはユークへ解説を入れる。
「俺達みたいに魔力を叩き込む必要性はなく、剣を振るだけで魔物を倒せる……はずだが、どうやらあの金色の魔物はその剣を余裕で防ぐみたいだな」
駆けつけた騎士達が交戦を始める。だが真紅の魔物は騎士の剣術を用いているためか思うように倒せない。そして金色の魔物についてはまともにダメージを与えられていない。
魔法が撃ち込まれても、金色の魔物は動じた様子がない――それを見てルヴェルは剣を抜く。
「俺達で仕留めた方がよさそうだ……周囲の敵を倒してくれ!」
ルヴェルは仲間へ呼び掛けると共に走り出す。ユークはそれに続いて剣を抜きながら金色の魔物へと近づく。
(……全力でいった方がよさそうだな)
決断と同時にユークの剣が放たれる。ルヴェルの斬撃が放たれたのは同時であり、金色の魔物が反撃に転じるより先に、両者の刃が直撃した。
斬った感触は鋼。刃で両断するなどということは難しく、同時にユークは剣を通して魔物がどういった特性なのかを克明に理解する。
(魔力が限界まで凝縮し、それが硬度を生み出している……!)
「これは、気合いを入れないとまずそうだ」
ルヴェルは声を発しながら追撃の剣戟を決めた。それで金色の魔物は体勢をぐらつかせたが、まだまだ撃破には遠い。
「単純に硬いだけじゃなくて抱えている魔力も多い。長期戦もいけそうだな」
「本来ならば一気に仕留めたいところだけど――」
ユークの斬撃が煌めく。金色の魔物へそれは見事直撃するが、敵は倒れない。
「漆黒の魔物だって倒せるくらいの魔力量だけど……これでも無理か」
「思った以上ヤバいな、こいつは」
会話の間に金色の魔物が反撃に出る。その武器は金色の拳であり、これまでの鈍重と形容すべき動きから一転、素早い動作でユーク達へ拳を繰り出した。
しかしユーク達はあっさりとかわし、金色の魔物と距離を置く。
「時間を掛ければ魔物を倒すことはできるだろう……が」
ルヴェルは周辺の状況を見回す。彼の仲間は紅の魔物を始め、街道に出現した魔物達と戦っている。騎士団も剣を振るい着実のその数を減らしているが、金色の魔物については誰も撃破できていない。
「動きが緩慢であるため、他の戦闘の邪魔になるようなことはなさそうだが……」
「各個撃破、しかないな」
ユークは声を発すると剣を構え直す。
「単純に硬いだけじゃなくて、魔力が凝縮していることもあって、斬りにくいんだと思う」
「何かやり方があるのか?」
「斬るためのコツみたいなものはあると思う……それを解明するためにも、目の前の魔物を倒さないと」
「経験を積むしかないって話だな。まったく、面倒な魔物を組織は生み出したもんだな」
「魔物は『混沌の主』に基づいた存在なんだ。このくらい面倒があってもおかしくはない」
「ああ、確かに……動きが鈍く戦いやすいというのが幸いだし、まだやりやすいだけマシなのかもしれないな」
金色の魔物が接近し攻撃を仕掛ける。その動きを見極めユーク達は距離を置きつつ、繰り出された拳をかわす。
そして反撃はまったくの同時、ユーク達の刃が再び金色の魔物に当たり――今度は、その体躯が大きく傷ついた。
「魔力は金属などから得ているわけだけど、さすがに無尽蔵に蓄えることができるわけじゃない。交戦すればするほど魔力は減っていき、体の硬度も失うといったところかな」
「であれば、いけそうだな……ただ、金属から魔力を吸収するわけだろ? 俺達の剣からもそうか?」
「その可能性はある……でも、剣に叩き込んだ俺達の魔力までは吸えないはずだ。もしそれができるなら、ここまでの戦闘でやっているだろうし」
と、ここでユークは一つ察した。
「騎士の剣は魔力が仕込まれている……そういった魔力を吸収し、騎士の武器を何の変哲もない剣に変えることで、優位に立とうということか」
「はっ、なるほどな……敵の考えそうなことだ。騎士達と戦うにしても、優位に立てる特性を持っているというわけだ」
(……デレンドは国と関わり武器を提供していた)
ユークは心の中で呟く。
(つまり、武器の特性も把握していただろう……なら、金色の魔物は騎士相手に有効な対抗手段となる)
この魔物を使って、何をするつもりだったのか――思案する間にも金色の魔物が迫る。だが傷ついた体躯から魔力が漏れ出しており、戦闘開始前と比べて魔力を失っている。
(とにかく攻撃をして、体を削る……が、攻略法になりそうだ)
ユークは断じつつ、迫る金色の魔物へ剣をかざした――




