変化と失敗
ユーク達が流した噂によって、王都では色々と騒がれ始めた。結果、国側は重い腰を上げて組織について世間に公表した。
現在、調査は続行しており残党についても少しずつ調査は進んでいる――ただ、その説明だけで納得するものは少なかった。酒場などでは傭兵なども議論するようになり、勇者の中には「もっと積極的に動きべきでは」などと提言する者もいた。
ユークとしては予想以上の結果であり、場合によって暴動すら起きるのでは――という懸念さえ出たのだが、ルヴェルなどが動いたことによってそこまで大きな動きはなかった。そして、
「……組織に所属していた仲間についてだが」
ルヴェルはユークがいるデュラの屋敷を訪れ報告を行う。
「俺に組織の人間であることを告白してきた」
「……どういう事情で?」
「情報を渡すことで組織から金を受け取っていた、みたいな説明だった。組織が壊滅したことで縁は切れているが、残党に関しては間違いなくどこかにいる、という感じで説明された。俺としてはひとまず他の仲間には黙っていると返答した」
肩をすくめながらルヴェルは言う。
「ま、後ろ暗いことをやっていた仲間もいるからな。俺としては組織に加担した事実を後悔しているなら、今後人々のために尽くせと言って終わった」
「ひとまず、大丈夫そう?」
「ああ、警戒はしておくから心配はいらないさ……この一事でわかることは、仲間も人の形をした魔物が『混沌の主』に由来するものだと知らなかった、ということだ。さすがにヤバいと悟って組織と縁を切ったという感じだろうな」
「その人は確か、シャンナさんの姉の魔力は持っていなかったはずだし、傀儡になることもない……か」
「その辺も一応警戒はしておくさ……おそらくだが、今回暴露された内容によって、組織内も相当混乱しているはずだ」
「そうだろうね」
「何か情報をつかんだか?」
「……開発した索敵魔法なんかで調べた結果だけど」
そこでユークはオガスとシュバーザ家のことを切り出す。
「勇者の指導者に加えて、組織関連の人間と思しき人が出入りするシュバーザ家……ただ事実が公表されてからその動きがそれまでとは明らかに違っている」
「動揺している、というわけか」
「魔力採取をするために魔物討伐をしたけど、あの魔物はたぶんシュバーザ家の当主が実験によって生み出したものなんじゃないかと思う。けれど『混沌の主』に由来する技術であることが明確となって……このまま実験を続けるか、迷っているんじゃないかな」
「だとすると、確実に効いているのは確かだな……問題はシャンナの姉だが」
「さすがに表には出てこないと思う……けど、組織内でどの程度の人がこの事実を知っていたか。それによって状況は大きく変わってくる」
ユークの言葉にルヴェルは頷き、
「後は結果待ちだな……ただ、仮に組織から離反するにしてもわざわざ組織の拠点について情報を国へ教えるわけではないだろ」
「そこはまあ、国が上手くやるんじゃない?」
――そうユークは返答したが、数日後に予想とはまったく異なる展開となった。
その日、ユークは町の状況を確認した後に一度デュラの屋敷まで戻ってきた。
索敵魔法を使用してデレンドの動向を窺う――今日はどうやら王都の外へ出て実験していた魔物の所へと向かっていた。
「このまま実験を続けるつもりか……?」
使い魔を通して観察していた結果、デレンドとしても衝撃は大きく魔物の実験についてどうするか決めあぐねている様子だった。もし、組織の人間であることが露見すればどうなるか――『混沌の主』に由来する技術、となれば単に失脚するだけでは済まされない。
政治的に強い位置にいた以上、もし組織の人間であることがバレても対策はとれていた、という認識だったのかもしれない。だが『混沌の主』の力であることが公になった以上、組織を見放す人間だって出始めている。よって、このまま実験を重ねこの事実がバレたとしたら――
ユークはデレンドが内心でかなり迷っているのだろうと予想できた。もしかすると今日、魔物の所へ赴いたのは魔物を処分するためかもしれない。
そんな予想を立て事の推移を見守っていた時だった。索敵魔法で感知したデレンドの動きが、普通とは違っていた。
「……ん?」
森から出て、一目散に王都へと向かっている。馬か何かで全速力といった具合であり、ユークはこの時点で嫌な予感がした。
そこで索敵魔法の矛先を魔物がいるであろう場所へ向ける。そこには、
「……まずいな」
多数の気配がそこにはあった――間違いなく人型の魔物達。それがどうやら森を出て、活動を開始している。
「これは……シャンナさんに知らせるべきか」
ユークは即座に動き出す。それと共に何が起こったのか確信する――デレンドは実験に失敗し、魔物が暴走を始めた――




