勇者の策
ユークは決断した後にルヴェルと顔を合わせ――次の行動について詳細を語ると、彼は笑みを浮かべて同意した。
「組織側の動きによってはリスクある行為だが……勝算は結構高いだろ。面白そうだし、協力するぜ」
面白い、という点で賛同したらしい――ルヴェルの反応にユークは苦笑しつつ、手を貸してくれることに感謝した。
そして数日後――研究者から得た情報についてだが、国側としては表立ったアクションを起こすことはなかった。ユークはデュラに確認したが「詳細は不明だが、会議はしているようだ」という返答を受けた。
それを聞いてユークは報告までの間に情報がねじ曲げられたか、あるいは情報そのものを薄めて大したことないようにしたか――組織の介入があったのだろうと判断する。
(俺一人騒いでも、政治的に問題ないだろうという判断だな)
とはいえ――ユークはこの数日で新たな動きを見つけた。それはデレンドの屋敷に潜伏させていた使い魔による情報。人型の魔物が持つ魔力が『混沌の主』に由来するものだったとして、他ならぬデレンドが驚いていたのだ。
この点からやはり組織内でも情報共有されていなかったことが認識できた。とはいえ、彼についても驚きはしたが大きな動きはない。
報告内容がねじ曲げられた可能性を踏まえると、国の上層部にいる人員、あるいは連絡役などの人物に組織でも重要な人員が配置され、その人物経由でデレンドは話を聞いて詳細が届いていないのでは、とユークは考えた。
(国が動かなければ、どこまでいっても大きな話にはならない……でも、次の矢はどうかな?)
ユークが内心で考える間に――調査を行ってから十日後になって、作戦が機能し始めた。
実行した策は至極単純なもの。ディリウス王国とログエン王国――二つの国にまたがり活動していた組織。彼らは『混沌の主』を復活させようと目論んでおり、その残党が今もなお活動している、という話を王都内へ流した。
この事実だけでなく、研究によって得られた情報を流した――結果、情報機関が相次いで反応。組織が生成していた魔物に関する研究結果や内容が真実であり、実際に『混沌の主』に由来する力を保有していることが明るみとなった。
そして、人々の間で国に対する言及も増える――これほどの事態であるのに、なぜ国は悠長にしているのか、と。
「……お世話になっている以上、国に批判が向くのは申し訳ないけど」
そうユークは語る――場所はデュラの屋敷客室。対面する形でルヴェルがいる。
「こうでもしないと動かないだろうし」
「そうだな」
「あとは、調査した研究員の人が情報漏洩ということで罰せられないかが心配だけど」
「ああ、そこについては研究員本人が後悔はない、と断言していたぞ」
と、ルヴェルはユークへ語る。
「色々話を聞いてみた結果、この事実を知った以上は話を広めるべきだと」
「責任感を持ってもらったのはありがたいけど……」
「それに、町の人の評価としては研究員はよくぞ調査した、という感じだから国としては処分したくても難しいと思うぞ。情報漏洩の問題で何かしら沙汰はあるかもしれないけど、研究者を辞めさせられる、みたいな形はたぶんない」
「そうであったらいいけど……で、思った以上に噂が広まっているよね」
ユークの言及にルヴェルは頷き、
「ここについては俺も驚きだが、まあかなりセンセーショナルな話だからな。組織があったということもそうだが、残党達がまだいてしかも『混沌の主』に関すること……伝説上の存在だし、本当にいるのかと疑いそうなものだが、その魔力が存在しているという事実から、信憑性が高いという解釈があって噂が驚くほど広まっている」
「狙いは成功したけど、問題は国の動きだね」
「その辺りの情報はまだ出ていないのか?」
「対応はしていると思うよ……少なくとも王様を含め、人々から支持を受けたい人達からすれば、黙っているのは悪手だとわかっているはず」
そう述べつつ、ユークはさらに話を続ける。
「ルヴェルさん、組織の構成員であるお仲間はどうしているの?」
「かなり動揺している様子だ。知らされていなかったらしい」
「そういう組織の人間が多ければ、かなり影響が出てくると思うけど……」
「その中で誰か一人捕まえて、拠点の場所なんかを聞き出せば早そうだが」
「問題はシャンナさんの姉の居所だよ。さすがに捕まえるのはもう一山あると思うんだけど」
「それは間違いないが……国が表立って動くことになれば、さすがにキツいだろ」
「……そうだね」
ユークは同意しつつも、もし捕まえるとなったら大きな戦いになるだろう、という予想も立てる。
「たぶん、シャンナさんの姉を捕まえる際に、決戦になるだろうね」
「かもな……それで本当に終わってくれればいいが」
「組織については『混沌の主』に関する力を没収すれば今度こそ壊滅するかな?」
「ま、選択肢としてはそれしかなさそうだ」
ルヴェルは結論を告げつつ――ユーク達は今後のことについてさらに議論を重ねたのだった。




