調査と研究
デュラへ報告をしたユークは、すぐさまルヴェルと共に行動を開始した。まずは遭遇した魔物に関しての情報集め。ただ実際に遭遇した冒険者は少なく、ここについて目立った成果はなかった。
けれどこの点についてはユークとしても想定内――よって、魔物がいると思しき怪しい場所について数日間で情報を集め、いくつか候補を得た。
ユークはルヴェルと相談し、まずはそこの調査を行おうということで決定。行動は素早く、ユークはルヴェルの仲間と共に調査へ赴くこととなった。
「……確認だけど」
王都を出てユークはルヴェルへ尋ねる。ちなみに今回ルヴェルの仲間は合計で五人ほど。
「今回同行する人の中で組織の内通者はいるの?」
「いるぞ」
あっさりと応じるルヴェル。
「けど、さすがに俺達の行動を止めるようなことはしないだろ。あくまで俺達の動向を探るだけ」
「……つまり、監視というわけか」
「ああ」
応じるルヴェルの顔は明るい――さして気にしていない様子だった。
(むしろ、このくらいは当然ってことか)
ユークとしてはその仲間が誰なのかは尋ねないことにした。よって表面上は穏やかに街道を進む。
――当該の場所は森であり、王都から数時間程度で辿り着く距離。ユークはまず森の手前で索敵を行う。魔法を使用するとそれらしい魔物がいた。
「人型の魔物がいるみたいだな」
「ユーク、調査といって具体的には何をするんだ?」
ルヴェルからの問い掛けにユークは、
「魔物と交戦してその魔力を採取する。といっても魔法を使うだけだからルヴェルさん達は何もする必要ないよ」
「その魔力、採取したら国の機関で調べてもらうのか?」
「そうだね。ただ、俺自身のつてで見つけた研究場所だ」
「へえ、良さそうな所を見つけたのか」
「うん」
ユークは応じつつ、森へ足を踏み入れる。
「とにかくまずは魔物だ。気配からすると漆黒の魔物とかではなさそうだから、問題なく対応はできると思う」
「……調査結果が楽しみだな」
ルヴェルは笑みを浮かべた後、ユークと共に森の中へ進み始めた。
調査という名目の魔物討伐は、それから一時間後には終了した。人型の魔物と遭遇したが特段苦戦することもなく、ユークは目的を達成して王都へ帰還する。
「結局、監視をする人は怪しい動きを見せなかったね」
「魔力を採取したくらいじゃ反応しないってことだろ」
ユークは屋敷へ帰る途中、横を歩くルヴェルは応じる。ちなみに屋敷へ送り届ける、という名目で彼は隣にいる。
「魔力調査は国でもやっているし、それで組織の拠点が割れるわけでもないから放置でいいと考えているわけだ」
ルヴェルは語った後、別の話題を口にする。
「森へ入る前に言っていた研究場所、というのは?」
「実は少し前に、勇者のことを調べるということで学者さんに会ったんだ。そこで、その人に頼んでとある研究室から色々と資料を提供してもらおうと」
「研究室か……」
ユークは今回の活動を始める前、シュノと顔を合わせ色々と資料が提供できる研究室と渡りをつけられないかと頼んだ。シュノは請け負ったが、協力してくれるかわからないと事前に言い含められていたのだが――ユークの名前を出したことで事が進み、手を貸してもらえることになっている。
「あくまで国側の調査は現在の組織や人間を対象としたもの。一方でユークがやろうとしているのは……」
「昔……特に『混沌の主』について」
「関連が出てくると思うか?」
「精査すれば何かしらの形で見つかると思う……もっとも、それが確固たる証拠になるのかは現時点で不明なところだけど」
「もし詳細が分かったらどうする?」
「……そこからは、国側の判断に任せるしかない。俺が独断で公表してもインパクトはないし。ただ」
ユークはここで笑みを浮かべる。
「さすがに相手が相手だ。国だって驚愕するだろうし、徹底的に調査をするだろう」
「その中で組織の構成員も動揺を見せる……か」
「あくまで可能性だけどね……これで現在捕まっている勇者オルトや勇者ロランが何かしら語ってくれたら嬉しいけど」
「ロランくらいは力の根源について知っていそうなものだが」
「さすがに真実は語らないんじゃないかな……シャンナさんの姉も」
「ここは賭けか」
「うん。とはいえこちらとしては負けてもいい賭けだし、気楽ではあるけどね」
肩をすくめるユークに対し、ルヴェルは苦笑する。
「どうしたの?」
「いや……なんというか、やり方がえげつないな、と思って」
「相手だって無茶苦茶やっているわけだし、こっちだって容赦はしないよ」
「ははは、それもそうか……なあユーク、今回の事件を解決しても勇者として活動する気なのか?」
「……どういう意味?」
ユークは質問の意図を尋ねる。
「勇者として活動して欲しい、ってこと?」
「単純な興味だよ。今の君なら何にだってなれそうだからな」
「……さすがにそれは、過大評価だよ」
そんなやりとりをしつつ、ユーク達はデュラの屋敷まで歩き続けた。




