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準備万端

 デレンドやオガスの警戒が緩んでいる隙を見計らい、ユークは両手を後ろに回す。そしてほんの一瞬だけ魔法を発動させた。


 それは誰かに気付かれることはなく――なおかつ、ユークを観察する視線についてもないからこそ実行に移した。魔法によって生み出したのは小さなネズミを象った使い魔。それを研究所内に複数生み出し、放った。


(これでよし……と)


 相変わらずデレンドやオガスは気付いていない。使い魔を生み出した手の位置も、その動き自体も間隙を縫うように発した。バレている危険性はほぼ無い――が、当然ながら警戒は必要だ。

 ユークは気取られないよう周囲の様子を観察する。動きを怪しんでいる人間は誰もいない。それに加え観察している魔力もここにはない以上、まず問題ないだろうと胸中で呟く。


(もう少し別の場所でも使い魔を放ちたいけど……あんまりやると俺の魔力によるものだとバレそうだし、控えた方がいいかな?)


「準備を始めた。少し待っていてくれ」


 デレンドが言う。それにユークは頷き、


「どのくらいで準備は終わりそうですか?」

「五分程度だ。椅子を用意しよう」


 室内にいた人間が何かしら準備を始める。そこでユークは呼吸を整え、身の内で魔力を操作する。


(……今回の調査で解析したことを利用されないうちに行動するつもりではあるけど、念のために解析されても問題ないようにしておくか)


 ――ユークが行うのは魔力の質的変化。これによって相手に能力などを悟られないようにできる。

 とはいえ、魔法を維持し続けなければ効果を発揮しないため戦闘には向かない。あくまで魔力的に他人になりすますためのものではあるのだが――


(この魔法については誰にも伝えていない……さすがに勇者の修業時代に諜報活動が出来る術を学んだ、とかなったら変に思われるからな)


 先ほどの使い魔についても、容易には察知できない特性を持っている。こうした言わば「誰にも悟られずに様々な目を作り出す」方法をユークはいくつも持っていた。

 ただ今までは使ってこなかった――組織相手に使おうにも潜伏先に入るなどということはなかったし、何よりこんな魔法を使える、あるいは使用していると知られたらそれだけで警戒に値する。場合によっては国側から不審がられる。


 よってユークとしては魔法使用を控えていたのだが、今回の場合は問題ないだろうと判断した。


(まあ、使い魔によって得られた情報を国に伝えるのにも工夫がいるよな……さすがに諜報魔法を使いました、なんて言ったら何をやっているんだと言われかねないし)


 では情報を得たらどうすべきか――ユークが考えていると、準備が整ったかでレンドが声を掛けてきた。


「では始めようか」

「わかりました」


 返事をしつつ、ユークは動き始めた――






 そこからユークは気取られないよう他の場所にも使い魔を設置することに成功。戦果としては上々だろうと考え、屋敷を離れることとなった。


「武具については君に関する調査がある程度進んだ後になる。続報はいずれ伝えるから、それまで待っていてくれ」


 デレンドの言葉にユークは頷き、オガスと共に外へ出た。


「ここまで話が進むとは思いませんでした」


 帰り道、オガスへユークが言うと彼は柔和な笑みを浮かべた。


「それだけ君を気に入っているということだ……さて、私の方もここで別れるとしよう。君は一人で帰ることができるか?」

「道順は記憶しているので問題はないです」


 そしてユークは一人になる。歩き去るオガスを見ていると、


「……動向は探っておくか」


 呟いた後、ユークは歩き始める。さすがに使い魔を人につけることはできないため、オガスのことについてずっと観察し続けるというわけにはいかない。

 もっとも指導者とはいえ戦闘能力がある以上は観察し続けることにリスクがある。しかし彼の動向や動きについても注目したいのは事実であり、可能ならば調べようと思い至った。


(ただ、やり方は限定される……使い魔を仕込むことができたし、あまり無理をする必要もないかな?)


 ふいにユークは手をかざす。それによってデレンドの屋敷内にいる使い魔の位置を把握することができる。

 使い魔そのものは大きさなども変えることができるネズミのような獣であり、場合によっては書類程度なら運ぶこともできる――何かしら明確な証拠を見つけることができたのなら、それで一気に話を進めることができる。


「とりあえず部屋に戻って作業だな……」


 使い魔は自律して動くこともできるが、簡単な命令しかできないため自分自身で動き情報を集めることが重要――夜の内で人気のない状況ならば動いてもバレる危険性は低い。残る懸念は魔力による監視魔法だが、


「人がいない場所で使うはずもない……対策も仕込んではいるし、大丈夫かな?」


 二度、同様の魔法を受けた経験から使い魔を発する時に対策は講じていた――準備は万端。そう心の中で呟きながら、ユークはデュラの屋敷へと帰るのだった。


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