観測した人物
ユークはそこからシャンナやルヴェル、さらにアンジェとも顔を合わせ話をして何事もないように装いながら、少しずつ索敵魔法の強化を行う。より精度を高めることが、騒動解決の近道だろう――『混沌の主』という存在が頭の中でチラつきながら、ユークは自分にできることを進めていく。
その中で、シャンナは重臣の裏切り者と接触し、ルヴェルは仲間について調査を進める。アンジェの方に進捗はなかったが、ここはシャンナの動きによって変化するだろう、ということでひとまず定期的に顔を合わせつつ、様子を確認する。
そうして五日、十日と経過していく。ユーク自身は内心急いている中でも、世界は穏やかに日々が過ぎていく。ルヴェルやシャンナも決して急いでいない。むしろ慌てれば敵に動向を探られてしまう可能性がある。だからこそ、ゆっくりと事を進めるべきだと考えている。
ただその中でユークは自分に何かできないかと考え続ける――索敵魔法により魔力を観測した時から、内心で嫌な予感がしているのも事実。もしかすると、密かに何かが起きているのではないか。
組織が表立って動くことは間違いなくない。しかし、王都の周辺に魔力を漂わせている以上は、密かに攻撃する準備をしているのではないか。
そんな予感が、再度索敵魔法を使用した際、ユークの胸の内では確信に変わった。
「……大きくなっている」
以前観測した魔力が明らかに大きくなっているという事実に、ユークは気付いた。しかもそれが膨らんでいる場所は王都から多少なりとも距離がある森林地帯などであり、意図的に隠している。
「王都の中にいる存在については、異常なし……前とほとんど変わっていないな。ただ、人数が増えているみたいだけど」
これも何かの兆候か、とユークは考えつつどうすべきか考える。
(距離的には、余裕で日帰りできる。朝から図書館に行く、とデュラさんに伝えて出発すれば昼過ぎくらいには帰ってこれる)
ただ、とユークは思う。自分が動けば間違いなく組織の人間には伝わる。
(ルヴェルさんとかに話をして、調査依頼をするか? でも、魔力を観測できるのは俺だけだ……索敵魔法は魔法陣を使ってのことで、乱用することはできないしその魔力が逃げたりしたら組織を追うことは難しくなるな)
では、とユークは思案する。他に手立てはないか。
「うーん……もう一度魔法を使ってみるか」
庭園に設置された魔法陣を介し、索敵魔法を起動する。そこで、今までとは異なる変化があった。
「……ん?」
観測していた森の中にある魔力のわだかまり。そこに人間らしき存在が近づいている。
「何か実験をしていて、様子を見に来た……とか?」
そのタイミングを観測できたのは良い、とユークは内心で呟きながらその動きを捕捉し、なおかつ魔力について探る。
(この魔法は長時間もたない。作業をしているのを常に監視とはいかないから、次に索敵魔法を使用した際に判別できるよう精査しておこう)
――おそらく、現在進行形で何か動いている人間。組織の手の者であることは間違いないだろうと推測しつつ、ユークはその人間の魔力を明確に記憶する。
「手がかりは得た。この人を調査しよう」
おそらく王都にはいるはずだ――そう考え、ユークは魔法を解除した。
そして当該の人物について調査を行い、どういう人物なのかは明確となった。ユークは自室でこれまで得た資料などを向き合いつつ、一つ呟く。
「まあ大体予想していたけど……」
名はデレンド=シュバーザ。シュバーザ家は王都内でも有数の貴族であり、政治ではなく商売的な意味合いで成り上がった家柄である。
名門貴族とは少し異なる立ち位置であり、時に政治を司る者達からは商業主義的な考えにより軽蔑の対象になることもあるようだが、シュバーザ家は一切気にも留めず、その規模を拡大していった。
商業的な活動によって国もこの家柄を認めることにもなっており、王都内でも重要な位置を占めているのは間違いない。
「相手をするには結構大変な相手だな……」
そうユークは感想を述べる。
そして森の中で何かをしていた存在は、現当主。デレンドの容姿については密かに確認しており、謁見の際に顔を合わせた重臣達とは異なっている。
「また情報を探る候補が増えた……というわけだけど」
ユークはそう呟きつつも、彼の行動を見ていた結果、面白いことがわかった。
それは、シュバーザ家に出入りしている者の中には、組織の魔力をまとう人物や、勇者の指導者であるオガスの姿もあった。
その事実からユークはシュバーザ家の屋敷が現在組織の王都における活動拠点となっているのだと断定できた。
「かなり重要な情報を得たのは間違いないけど……ここからどう動くか」
シュバーザ家は様々な場所に影響を与えている。王家もそうだし勇者達にも。現時点でこの情報はルヴェルやシャンナにも話していない。
「……二人に詳細を語っても、問題はないと思うけど」
ユークはどうすべきか悩んだ後――やがて決断し、動き出すべく部屋を出た。




