納得できる理由
ユークは自室で思考する――現在、組織の手の者だと確定している人物は二人。一人は謁見の際に顔を合わせた重臣。もう一人は先ほど顔を合わせたオガス。
では両者に干渉して情報を取るのか――というと、ユークとしては微妙なところ。まず重臣はシャンナが率先して調べている。加えてオガスの方は無理に首を突っ込めばまずいことになる危険性がある。
「俺が怪しまれずに動いて得られる情報はこれが限界かな……」
ただ、とユークは考える。ここから進展させるには多少なりともリスクを取る必要性が出てくる。
(敵がシャンナさんの姉であるのは確定だとして……情報が集まれば追跡は可能。後はアンジェのことなんかを解決して準備を進めれば、ひとまずいつでも戦える態勢にはできる)
ひとまず足場固めをするべきか、と考えているとノックの音が。
「はい」
返事と共に現れたのは侍女。
「ルヴェル様がお越しになられました」
「なら客室へ」
侍女は一礼し退出。少ししてからユークが客室を訪れると、ルヴェルがソファに座って待っていた。
「よっ、調子はどうだ?」
「まあまあだけど……何かあった?」
「ああ、実は組織と内通していると思しき仲間が見つかった」
「え、本当?」
頷くルヴェル。そこから話を聞くと、何やら情報のやりとりをしている光景を目撃したらしい。
「俺が普段行かないような場所を訪れ、何かしら貴族と話をしていた。その人物のことをシャンナに調べるよう頼んだら、当該の人物は君が組織と繋がっていると判断した重臣の親族だった」
「なるほど……ということは、その親族全体が組織に加担している可能性が……?」
「あり得るな。シャンナとしては俺が得た情報から上手いことより詳しく調べようとしているみたいだ」
「そう……こっちも収穫はあったよ」
と、オガスについて告げる。それに対しルヴェルは、
「ああ、名前は知っている。顔は見たことないけど」
「勇者を指導する人間の中にも組織に加担している人間がいる可能性が高いね」
「まあむしろ、そういう人間にオルトやロランは何かしら吹き込まれたんだろ」
ルヴェルはそう告げつつ、肩をすくめた。
「組織はずいぶんと根が深い……討滅するのは相当大変そうだ」
「そうだね……ただ逆にここまで情報が多い以上、俺達が組織に接近することもそう難しくはないと思う」
「ああ、それは俺も同じように思う……なあ、ここまではあくまで情報を探っている段階だからわからないが、組織の目的は何だと思う?」
「そこがわかればもう少しやりやすくなるかもしれないけど……ただ、勇者が味方をしているところをみると、反体制……国に反逆する存在、ということなんじゃない?」
そうユークは告げたのだが、ルヴェルは納得していない様子だった。
「何か考えが?」
「いや……組織の人間が重臣や勇者……さらには勇者の指導者にまで及んでいるということは、組織の目的に対する賛同者が多いということを意味するわけだが……君が謁見の際に見た重臣は政治を行っている。そうした人物と勇者が目的を同じに活動しているというのは、どうにも違和感がある」
「重臣がクーデターを起こし、勇者制度を変えるという目的じゃないの?」
「普通に考えたらそうなんだが……現在の王様は人々の支持が高い。下手に国のトップをすげ替えようとしても反発が起きる危険性が高いだろ」
その点についてはユークは同意し小さく頷く。
「重臣は自分が実権を握るにしても、王様の存在はたぶんそのままにするだろう」
「その方が都合良く政治を運営できるから?」
「そんなところだ……で、そういった人物によって勇者制度を作り替える……あるいは、勇者が政治に参加する、といった方向で話を進めるとして、だ。上手くいくと思うか?」
問い掛けに対し、ユークは首を左右に振る。
「無理だろうね」
「だろうな……そこについてはオルトはともかくロランは気付いているはずだ。あいつはかなり賢いからな。けれど、組織のやり方には賛同し協力していた……組織のトップであるシャンナの姉がよほどカリスマ性を持っていたと考えてもいいが、彼女が表舞台に出てくるのはそれはそれでリスクが高い」
「……つまり、勇者ロランを納得できるだけの理由が見当たらないと?」
ルヴェルは頷く――だとしても、実際にロランは国を裏切っている。
「うーん……結局ルヴェルさんは何が言いたいの?」
「二つ可能性を考えたんだ。一つは純粋に組織のやり方に賛同した……契約魔法などによって事情を話さないというのは、組織の秘匿性を保つのもそうだが、何より組織さえ維持すればいずれ反撃できると考えているから……それは深く根を張った組織の情報網を考えれば、納得できる」
「うん、あるね……もう一つは?」
「ロランですら、気付かないほどの何か……魔法などによって、操られている点だ」




