目論見
デュラと話をした後、ユークはルヴェルへ会いに行く。酒場にいたため、今日デュラへ行った報告について説明する。
「機密情報か……」
「勇者オルトは、勇者制度に批判的だった。勇者ロランはわからないけど、何かしら不満があるから国に対し攻撃しようとした……という風に解釈していたけど……」
「実際は国が後ろ暗いことをやっているから、オルトやロランは裏切ったと」
「可能性の話だけど」
――ユークは説明をしたが、シュノと話をした一件については何も語っていない。そこまで話すのは長いことに加え、意図的にルヴェルへ語っていないこともあるためだ。
それは一体何か――ユークが推測したことと、デュラへ告げた思惑だ。
「組織に対しアプローチできる方法は限られているけど、ひとまず国側は今以上に警戒し、締め付けを強くしないとまた足下をすくわれる」
「確かに、今は守りを固めた方がいいのは間違いないな……で、君がそうやって言う以上は、単に懸念しただけじゃないだろ?」
「……ルヴェルさんとしては、国が後ろ暗いことをやっているとして、それが何であるか推測できる?」
その問い掛けにルヴェルは肩をすくめる。
「政治、というのは大なり小なり後ろ暗いことが多い。正直、あらゆる可能性が考えられる」
「そういうものかなあ……」
「清廉潔白な人間だってもちろんいるだろうが、そういう人間ばかりでは政治というものは成り立たない。ディリウス王国は相応に大きい国だから、相応に後ろ暗いことはあるだろ……ただ」
と、ルヴェルは興味なさそうに、
「例えば、賄賂を受けているとかは俺にとって影響あんまりないし、関心はないな」
「……勇者にまつわること、という話だったら?」
「あー、俺達に関わってくること……だから、ロランなんかが裏切ったと?」
ユークは首肯。ルヴェルはそこで一考し、
「そういう理由だとしても、どんな理由なのかは想像もつかないな……そちらは何か関係あるか?」
「特には」
「単純に勇者制度を批判するから、とかそういう理由だったらまだわかりやすいんだが……もし国の何かが関わってくるとしたら、到底俺達が足を踏み入れていい領域じゃないな」
「気になるけど、さすがに深追いしたらまずそうかな?」
「たぶんな」
――ルヴェルは極力政治に関わらないようにするスタンスであることが明瞭だった。
「ま、君の警告は無駄じゃないと思うぞ。国側としても漏れてしまった情報がどのようなものか明瞭になれば、組織の連中がどの程度中枢に入り込んでいたのかわかるだろうし、結果として組織構成員が他に見つかる可能性もある」
「そうだね」
「それを狙って警告した、とでも言いたげだな」
「目論見もあるけど、一番は色々と懸念があるな、と感じたことだよ」
そこについては嘘だった。とはいえ、ルヴェルのスタンスを見れば、下手に言わない方がいいだろうとユークは判断する。
(少し様子を見て……問題は、俺は次にどういう行動をすべきなのか)
もし、これをきっかけに国側と話をすることができれば――そんな考えに至ったが、さすがに厳しいかとユークは思い直した。
「しばらくは様子見、かな?」
ユークはルヴェルと顔を合わせた帰り道、そんな風に呟いた。
アンジェと話をしたことに加え、組織に対し現状でやれることはやった――とはいえ、まだまだやることはある。
「ひとまず修行に専念するかな……」
敵の拠点へ仕掛けるという段階となって勝てないようでは話にならない――デュラへへ話を通し、騎士との訓練にでも参加させてもらうべきか。
「ここも話をしてみて決めればいいか」
ユークは組織に関してのことはいったん忘れ、王へと語ったことを実行しようと決める。
「あんまり国に頼って動き回ると目を付けられそうだけど……ま、ゆっくりやればいいか」
組織に関しても――頻繁にルヴェルなどと顔を合わせていれば、次第に何かやっているのではと怪しまれる危険性も出てくる。勇者であるため交流するのはいいが、さすがに目を付けられることは避けたい。
「決闘なんてやらかしているから、微妙なところだけど……いや、ギリギリかな」
ユークはそう考察しつつ、軽くのびをする。
「よし、改めて明日から頑張ろう」
そう口にしつつ、今日のことを振り返る――調べ物を開始したした初日で思わぬ成果を上げたのは、運が良かった。
「勇者か……」
そしてユークは呟く。勇者――改めて考えても、国にしてみれば厄介な存在だろうと思う。
国としてはきちんと保護はしたい。だが、現状では勇者という存在に振り回されているのではないか――そう考察する中でユークは一つ考えた。
それが正解なのかはわからないが、シュノの話を聞いて警告したことは、実を結ぶかもしれない。ユークは今後の展開を予想しつつ、屋敷へ帰ることとなった。




