最終手段
決闘から翌日以降、ユークの名は勇者間で大きく知れ渡った。国の中心である王都で起こった出来事であるため、町から町へ伝播していった。
「俺達の予想以上に影響は大きかったっぽいな」
デュラの屋敷を訪ねてきたルヴェルは、ユークと顔を合わせた際、開口一番そう告げた。
「決闘内容が語り草になっている」
「ここまで大きい話になると、逆に大丈夫かなあと思うけど……」
「ま、別にいいんじゃないか? ところで、俺が今回来たのは――」
「うん、わかってる。ルヴェルさんの仲間についてだろ?」
疑問にルヴェルは首肯する。
決闘が行われた直後に、ユーク達は酒場へ戻り彼や彼の仲間と話をした。決闘によってユークに対する感情も変化しており、ルヴェルが負けたというのに親身になって話し掛けられるケースが多かった。
よってユークは労せずしてルヴェルの仲間と交流することができ、その中で怪しい人物がいないかを確認することができた。
「結論から言うと、魔力的に怪しい人はいなかったよ。さすがにルヴェルさんの仲間にある人は、気配で察知される可能性もあるからやらないんじゃないかな」
ユークの言葉にルヴェルはなるほどとばかりに頷く。
「ま、勇者に接近するためにこれみよがしに怪しい気配を振りまく理由はないよな」
「表面上は組織の人間がいないってことだけど……」
「さすがにこの情報だけで判断はできない。下手に探っても怪しまれる危険性があるが、調査は進めないと仲間に手伝ってもらうことはできない」
ユークは頷く。ただ現状ではこれ以上探れば自分達の行動がバレるかもしれない。
「ルヴェルさんとしてはどうするの?」
「……方法としては二つある。一つは仲間に頼らないという形をとる。シャンナも仲間に加わったし、敵組織の拠点などが判明しても、ある程度の対応は可能だろう」
「もし戦いになったら、ルヴェルさんの仲間達は置いていく?」
「その選択もありだ。後からちゃんと事情を説明すれば納得はしてもらえるさ」
「ルヴェルさんがそれでいい、というのなら別にいいけど……ただ、シャンナさんだって限界はある。戦力を確保できるのであればやっておきたいけど」
その意見にルヴェルは小さく頷きつつ、
「ま、これは最終手段だな……俺としても仲間がいた方がいいとは思っている。ちなみにユークには戦力を得る手立てはあるか?」
「王都に知り合いがいるわけじゃないし……まあ、やりようはあるかもしれないけど」
「それは?」
「王様に事情を説明する」
――現在、ユークがお世話になっているのは国王の甥。彼を介することで国王と話をすることは十分可能だ。
実績を考慮すれば、一度顔をつきあわせて話がしたいと要求すれば、通る可能性はある。もっとも、相手は国王であり重臣達の中にはユークを特別扱いすることで反発する者も出てくるのは予想できる。よって、
「ただこれも最終手段だね」
「確かに、王様の力を借りることができるにしても、後が怖そうだな」
「事情を説明すれば、理解はしてくれると思う。重臣にも組織の人間がいるってことを踏まえれば、そういう人物を追放するために手助けはしてくれるはず」
「ああ、そこは間違いない」
「でも、組織の人間がいるかもしれないということで、事情説明は後回しになる……当然、なぜ話さなかったのかと反発される」
「そうだな。王様に頼るということは、権力を利用することを意味する。さすがにそんな真似をしたら面倒なことになるし可能な限り避けたいな。ま、一つ一つやれることを進めていくとしよう」
「ルヴェルさんの仲間についてはどうするの?」
「そこは俺なりに上手くやるさ……心配するな、絶対に組織のことを探っている、という点がバレないよう、慎重に行動する」
その言葉にユークは小さく頷き同意した。
「さっき方法は二つあるって言ったけど」
「ああ、話を続けると……二つ目は、組織の人間だろうがどうにもならない状況を作り出すことだ」
「それって……どういう……?」
「組織の拠点、その場所などが割れた段階で判断すべきだが、仲間達に助力を願うとして、組織側の人間がどう頑張っても抗えない状況にした上で、動く」
「強引だね」
「ああ、力技だな。けど、組織は風前の灯火である……それを暗に示すことができれば、仲間としては組織に従うよりこのまま俺の仲間として活動した方がいい、という判断にならないか?」
「……理屈はわかった。ただそれをする場合、拠点の場所を割り出すことに加え、相応の情勢を作り上げないといけない。単純に仲間を集めるよりも大変のように思えるけど」
そうユークは述べたが――組織の構成員として国の重臣がいるとなれば、そういった方法をとった方がいいのでは、という考えも抱き始めた。




