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証を持つ者

「今回の賞金首は魔物だ。この町の近隣に存在している魔物……それも、かなり凶悪なやつみたいだな」


 ユークは町中を歩みつつ、隣を歩くアンジェへと説明を始めた。


「その魔物には『髑髏の魔剣士』という異名がある……名称の通り骸骨の姿をした剣士だ。ちなみに鎧なども着ているらしい」

「死亡した人間が瘴気と結びつき、骸骨となっても動き続けている、というわけですね」

「そうだ。瘴気というのは触れたもの何にでも影響を与えるからな……そいつは山岳地帯の渓谷に居を構え、近づく人間なんかを襲っていると」

「死んだ場所を守っているとか、でしょうか?」

「かもしれないな。魔物自体の討伐ランクは上級だから、普通の戦士からすれば手強い……相手の能力を探り、どう立ち回るかは決めよう」


 賞金首でもランク分けされており、下級、中級、上級と三段階ある。中でも上級は基本、被害が確認されれば国が討伐隊などを編成してもおかしくないのだが、


「今回の敵は一箇所に留まっているため、逆に言えばそこに行かなければ戦闘することはない……でも厄介な存在だから賞金首扱い、ってことだな」

「国としてはいちいち相手にしていられない、ということでしょうか?」

「うーん……どちらかと言うと手が回っていない、じゃないかな。ディリウス王国がいかに軍事的に精強であっても、領土の大きさから考えて何もかも相手に出来るというわけでもないだろうから」

「……そこでユーク様が動こうと?」

「俺の目的は違う……けど、人の役に立つのであればやろうとは思ってる」


 ここについては嘘ではない。それはアンジェに伝わったのか、


「わかりました。どこまでもお仕え致します」

「そこまでやらなくても……と、その前にまずは実力の確認だ。そこをクリアしないと始まらないぞ」

「はい」


 力強い返事――ユークの目には、これまで見たいかなる達人とも違う気配を感じ取る。


(……そうか)


 ユークはここで気付く――彼女がまとう空気。それこそ勇者という存在なのだ。


(俺は修行している間に通い詰めた町で気配を消すよう心がけていたから、こういう気配を発することはないけど……気配を隠せ、なんて教育を受けていないわけだから、強者のオーラを常に出し続けているわけだ)


「……道中向かう前に、もう一つやって欲しいことがある」

「はい」

「勇者の証を持つ人間は他とは違う気配をまとう……アンジェもそこは同じだから、魔物を刺激しないよう気配を消してもらいたい」

「気配、ですか」

「自覚ないのはわかるけど、そこはやってもらわないといけない。やり方は道中教えるよ」


 とはいえ、解説してすぐに習得できるかどうか――と少し懸念したのだが、それは杞憂に終わった。


 なぜか――町を出て少しして、あっという間にアンジェは技法を習得し、強者のオーラとでも言うべき勇者の気配を隠蔽することができた。


「うん、完璧だな。ただそれ、常時技法を発揮しないとダメだぞ」

「コツはわかりました。これなら寝ていても発動できると思います」


(……彼女もまた、証を持つ者というわけか)


 やはり相当な実力者――ユークは確信しつつ、彼女と共に目的都へと進み続けた。






 街道を逸れ、山へ向かう道の途中でユークは移動を速める旨を告げ、昨夜追いかけっこをしたように瞬足で森の中へと入った。

 本来森は視界も効きづらくなる上に枝などが邪魔をして本来は高速移動に向かない――のだが、体に膜のような結界をまとわせることで枝などが当たっても問題ないように処置できるため、ユーク達は無人の野を駆けるように進むことができた。


 よって町から数時間で目的地である渓谷に到達する――そこは荒涼とした風が吹き抜ける断崖絶壁に囲まれた場所。渓谷寸前までは鬱蒼とした森が広がっているのに、その場所は荒れ地のように草木がロクに生えていない。

 そして――視界にはまだ捉えることができていないが、真正面に濃密な瘴気と、それに付随する魔力の塊。


「いるな」

「まだこちらには気付いていないようですね」


 アンジェは剣を抜いて臨戦態勢に入る。それを見たユークは、


「そういえば確認していなかったけど、騎士ってことでいいんだよな?」

「はい。魔法もちゃんと使えますが」

「……その辺りも確認しておこうか」


 彼女の実力をつぶさに把握しておくことで、今後仕事をする上で役割を明確に決めることができる――と、魔力の塊が動き始めた。ユーク達に気付いたらしい。


「さて、相手は……」


 すぐに確認できた。黒い鎧を着た骸骨の騎士――出で立ちとしてはそのようなもので、まとう気配は凡百の魔物とは比べものにならない。

 骸骨であるためか威嚇で吠えるようなことすらしないまま、ユーク達のいる方角に体を向け警戒している。


「アンジェ、どうだ?」

「はい、いけます」


 あっさりと返答。その直後、魔物が動いた。明らかに殺気を漂わせ、ユーク達へ接近してくる――


 その移動速度は、ここへやってきたユーク達の移動魔法に引けを取らないほどであり、一瞬で間合いを詰める魔物――しかしアンジェは即応した。ユークの前に出ると同時に剣を構え、魔物が先制の剣戟を、真正面から受けた。


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