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強さの序列

 ――シャンナと話をしてから数日後、ユークはルヴェルに言われた場所を訪れた。そこは王都の城壁外であり、森に囲まれた公園のような場所だった。

 本来ならば小鳥のさえずりや風によって流れる葉擦れの音が世界満たしている――はずだが、今日ばかりは違っていた。


「大盛況だなあ……」


 ユークは感想を漏らす。ここを訪れた時刻は昼過ぎ。少し前に早めの昼食をとり、ユークは多少なりとも準備運動をしてここを訪れた。体調は万全であり、いつでも戦う準備はできている。

 そうした中、公園には多数の勇者が待っていた。そして公園入口から少し離れた場所にルヴェルがいた。その周囲には彼の仲間がいて、今か今かと戦いを待っている様子だ。


「来たな、ユーク」

「そうだね、とりあえず逃げずに来たよ」


 ユークが応じるとルヴェルは笑う。そんな様子を見て周囲にいた男性から声が上がる。


「おいルヴェル、一応訊くがこの決闘はどういう風の吹き回しだ?」

「――単純に、興味があったという話さ」


 ルヴェルは男性に答える。


「勇者ロランを捕まえた時のことは直接見ていない……が、少なくともヤバい魔物を瞬殺している光景はしかと目撃した。その年齢でどこまでの実力を秘めているのか……ただ興味があって、決闘を申し出た」

「で、勇者ユークは応じたと」

「断っても決闘するまで絶対粘るだろうと思って」


 ユークの言葉に同業者の幾人かが苦笑する――ルヴェルの強引さを理解している様子だ。


(……とりあえず、ルヴェルさんが無茶を言った、という認識みたいだな)


 ユークへ向け同情的な視線を投げる勇者もいた。ルヴェルの性格を理解し、巻き込まれた形のユークに対してはやっかみなどもない様子。


(とりあえず俺とルヴェルさんが組織に対抗するため動いている……なんて解釈はされないだろう)


「それじゃあ、始めるか」


 ユークが考える間にルヴェルが言った。途端、周囲のヤジが消え失せた。

 野次馬である周囲の騎士や冒険者達は、ユークとルヴェルを囲むようにして観戦する。公園の入口近くにも人がいて、踵を返して帰るということもできなさそうな状況。


 ――ここからのことについては、一切打ち合わせをしていない。どちらが勝つとか、あるいはどういう風に動くといったことも話し合っていない。


(ちゃんと実力でどちらが上か決めようというわけだ)


 ユークは剣を抜く。それに応じるようにルヴェルもまた剣を抜いた。


 ――内心、ユークはもし自分が勝ったらそれはそれで面倒なことになるのでは、と考えもした。しかしルヴェルは、


「それならそれでいいだろ」


 彼自身、自分が一番強い、といった主張をしたいわけではないらしい。そもそも、最強という称号そのものは別に必要ないと考えている節がある。


(勇者の中には強さにこだわる人はもちろんいるけど……ルヴェルさんは、そういうわけじゃない)


 ただこれは、最強格の勇者達全員に言えることなのかもしれない――ルヴェルもシャンナも、特段強さにこだわりはなかった。勇者ジストについては不明なところもあるが、史上最強などと噂されているユークを前にして敵対心などは見受けられなかった。こだわりがあるのか不明だが、強さによって序列をつけるという様子ではない。


 むしろ強さに執着があるのは彼らの周囲――仲間として手を貸しているからこそ、ルヴェルには強くあって欲しいという願いが間違いなくある。

 もしここでユークが勝ったならば――ただ、後々面倒事を引き起こすかもしれないと手を抜いた負けたとしても、他ならぬルヴェルがそれに気付くだろう。


(なぜ加減した、などと詰問されて軋轢が生じるだろうな……彼の仲間に目を付けられずにする代わりに、他ならぬ彼自身から文句を言われるわけだ)


 組織と対峙していく上で、それは間違いなく悪手――結局、全力で戦うしかないとユークは悟る。


「……色々考えているみたいだな」


 そしてルヴェルはユークの心情を推し量るように口を開いた。


「戦術のおさらいでもしているのか?」

「……まあ、そういう面もある」


 ユークは応えながらルヴェルを改めて見据える――正直なところ、隙がない。勇者ロランもそうだったが、最強格と謳われるだけの実力を持っている。

 ただその一方でルヴェルも動かない。剣を構えるユークに対し色々と視線を向けてはいるのだが、攻撃はしてこない。相手もまた、攻めあぐねている様子。


 周囲に一時静寂が訪れる。聞こえるのは風によって流れる葉擦れの音であったり、小鳥のさえずり。まるで、この瞬間だけ多数の人がいなくなったかのように――ユークは攻めた方が有利に働くのか、それとも待つべきか考える。


(魔物討伐でルヴェルさんの戦いぶりは見ていたけど……わからないな)


 とはいえ、このまま待ち続けるのも得策ではない、と判断したユークは、口火を切って動き出した。


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